Tさんは丑の刻参りの現場を見たことがあるらしい。あの呪いには見られた場合、相手を始末しないと自分に呪いが降りかかると言うが、Tさんは見たけれど別に何も起きてないし、儀式をしていたやつの訃報も無いだろうとのことだった。
「いやあ……なんと言いますか……怖いっちゃ怖いんですがね」
なんとも歯切れの悪い言葉からその話は始まった。
その日は深夜残業をしていたんですよ。激務でしたが給料はきちんと出ましたから、若さに任せて頑張っていました。今じゃあんな働き方は無理ですけどね。
で、丑の刻参りを見たわけですが、いろいろあるじゃないですか、ご神木に打ち付けないとならないとか面倒な決まりがあったりローカルルールみたいなものもあるらしいですし……よくは知りませんが、あの丑の刻参りはルール無視にも程がありましたよ。
深夜、部屋の灯りを消して鞄を持って部屋を出たんですが、そこで『カツーン、カツーン』と音が響いてきたんですよ。
なんの音だろうと不思議に思ったのですが、細かいことを気にするよりも、一刻も早く寝たかったので社屋を出たんです。
ところで会社が敷地内に神様を祀っているところが結構あるのはご存じですよね? 特にアレを信じているとか信仰しているとかそんな人は聞いたこと無いんですが……そこから音がしていたんですよ。
なんだろうと思ってそちらを見ると、工事用の懐中電灯を頭に巻いて、人形を工事用の釘で申し訳程度に生えている木に打ち付けている人がいたんですよ。
迫力も何もあったものではないですし、なんだか気が抜けて、その男に会釈をして帰ったんです。人を呪っているはずなんですが向こうもポカンとしてから会釈を返して何事も無かったように続けていました。
と、まあこれが丑の刻参りの現場だったんですが、流石にそんな方法で呪いが通じるはずもなく、平穏無事に過ごしていきましたよ。
あったことといえば翌日それをしていた同僚が私と顔をあわせると気まずそうに顔を伏せたくらいですね。
無駄と思えるような決まりでも無視すると何の意味もないんでしょうねえ……
なんとも締まらない話だが、それがTさんの経験した一番の恐怖体験だという。