月見里さんの家には鏡が無いそうだ。なんでも、鏡があると見えてはならないものが見えてしまうから置かないようにしているらしい。
「鏡は結界になるとかいうお話も聞きますが、そういったことは無いんですね?」
月見里さんはコクリと頷いて話してくれた。
「お風呂場にさえ鏡が無いのはどう考えても不便なんですが、流石にヤバい体験をしちゃうと無理も無いなって思っちゃいます」
月見里さんは家に居たときどんな体験をしたのだろう?
アレは我慢が出来ず百均で鏡を買ってきたときです。当時は鏡が家に一切無いのでメイクをするのは家の外でないと出来なかったんです。公共の場でそんなことをすると冷たい目で見られますし、やはり自室でやりたかったんです。
家に帰って鏡を開けたんです。そうしたらもう真っ黒、鏡の反射する部分が全部錆び付いて真っ黒になってるんですよ。そんなことあり得ますか? 鏡が錆び付くまで使う人なんてそうそういませんよ、そんなことになるくらいなら割れる方がよほどあり得ますよ。
そうして数回彼女は鏡を買ってきたそうだが、それぞれ、割れたり、錆びたり、ガラス部分が曇っていたりして一度もまともなものが買えなかったそうだ。なお、商品が正常であることは購入前に確認をしているので、家に持ち帰るまでに何かあったことになる。
結局あきらめましたよ、なんで鏡がダメなのかは教えてもらえませんでしたが、鏡がと口に出すだけで母が眉をひそめるのであの家と鏡は相性が悪いのでしょう。
ところが、最近ではその問題はほぼ解決したらしい。
スマホのインカメラってありますけど、カメラにはしっかりと自分が写るので最近じゃタブレットを買ってそれを鏡の代わりにしています。多分家にある何かも液晶やデジタルカメラが存在しない時代に何かあったんでしょう。今じゃそれで何も困ってませんよ。
今でも月見里さんの部屋にはタブレットが立てかけられていて、細かいところはスマホのカメラを使用しているらしい。