その日は朝から雨が降っていた。薄ら寒い日だったが日の光は差しており、惰眠を貪るには快適な日だった。そんな日に武田さんは理不尽な目に遭ったという。
「あれは子供の頃の冬休みですよ? ガキがそんな日に寒い中朝っぱらから勉強なんてするわけないですよね?」
うん、確かにそうなのだがそれは開き直りでは無いだろうか。とはいえ私も立派な子供時代を過ごしたとは言いがいたので否定は出来ない。
「その時に何があったんですか?」
未だにアレが実際に会ったことなのかは分からんがな……」
前置きをして彼は話してくれた。
「その日は布団で寝てたんだけどよ、それでもどうにも寒くってな、寝巻きのまま炬燵までいってそこで寝たんだよ。風邪なんて引くとも思わなかったしな。ただ、その中で夢を見たんだよ」
「夢……ですか?」
「ああ、夢だと思う。ぐっすり寝てたんだが気が付くと俺の頭の前に、なんていうかな? ほら、軍人がえらそうに写っている写真があるだろ? そんな感じの人間が立ってたんだよ。俺がびっくりして飛び起きたらいきなりそのおっさんに頭をゴツンとやられてさ、ソイツが言うんだよ『真面目に勉学もしないのか、それでいいと思っているのか』なんて言うわけだ」
それは夢なんですよね?
「多分な、その夢は何故かやたらリアルに記憶に残って目が覚めたんだよ。で、なんかあのおっさんは見覚えがあるなと思ったんだが、キッチンに水を飲みに行ったときに見えたんだよ。仏間に飾ってある写真にあのおっさんが夢に出てきた姿のままで写ってたんだ。ばあさんにアレは誰だって聞いたらご先祖様なんだとさ。なんか結構立派な人だったらしいよ、だから俺みたいなろくでなしが気に食わなかったのかね」
「その写真を見て無意識に夢に見たという可能性がありますね」
「まあ、そうだな。いくらでも説明はつくんだけどさ、炬燵で目が覚めたときに頭が痛かったのだけはどうにも説明がつかないんだよ、俺は頭痛持ちじゃないしさ……もしかしたら先祖に怒られたのかと思ったらいい気はしなかったな」
そう話してくれた彼は、その事があってから勉強に真面目に励み、それなりの大学に進学したらしい。そして一年の夏休みに里帰りしたとき、もう一度だけそのご先祖様が夢に出てきたそうだ。
「大学に入ってから帰省したら夢の中であのおっさんが俺に笑いかけて『やれば出来るだろう?』なんて言うんでやんの。体罰同然のことでやらせておいてよく言うよって思ったよ」
彼は現在、それなりの企業に勤めている。『一応ご先祖様の御利益なのかね』と言い、『それにしても乱暴だったがな』と言って笑った。