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SS:忠犬の思い出

「あまり後味のいい話ではないんですがね……」
沈鬱な表情をしながら大作さんは語った。その話は決してハッピーエンドではないが、話を残しておきたいとのことだった。
彼の実家ではペットを飼っていた。大型犬なのだが、なかなかの高齢だったらしい。
「その日は深夜にスーの声で目が覚めたんです。あ、スーっていうのはウチで飼ってた犬の名前です」
家の外で飼っていたが、今までよほどのことが無いと鳴くようなことはない犬だったし、ましてや高齢だったので大声で吠え立てるようなことはないはずだった。
その鳴き声で目が覚めたので部屋の灯りをつけたが、別に何があるわけでも無い。ただいつもの部屋がそこにあるだけだった。
スーの声で目が覚めたはずなのだが、再び鳴き声が聞こえることはなく、気のせいだったのだろうかと思い、灯りを消して寝ようとした。スイッチを切ろうとした瞬間に『ワウ!』と鳴き声が響いた。
やはり何かあったのだろうかと思ったので、窓から外を見た。やはり闇が広がるばかりで、気のせいではないはずなのだが、数回灯りを消そうとして、消そうとする度に泣き声が聞こえてくることが分かった。
仕方ないので灯りを消すのはあきらめ、部屋が明るいまま無理矢理寝てしまった。
翌日、近所で空き巣があったと聞いたのだが、その空き巣は深夜にこっそり部屋に忍び込んで金品を盗む悪質なものだった。
しかしゾッとしたのは、その空き巣が『いざというとき』の為に刃物を持っていたことだった。
結局、大作さんの家は灯りが付いていたので近寄ることもされなかったようだ。
これだけなら忠犬の話で終わるのだが、その役目を果たしたスーは、翌日には冷たくなっていたという。寿命だと診断されたが、死語結構な時間が経っていたはずなのに、どうして昨日の深夜あんなに大きな泣き声が聞こえたのかは分からないままだ。

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