「なあ、この前おかしな事があったんだが聞きたいか? そういう話を集めているんだろ?」
そう話してくれたのは既知の人であるAさんだ。彼は幽霊や妖怪などは信じていないそうだが、面白いことになったので私に話しておきたいと言い出した。
「この前あんまり柄のよくない連中と墓場に遊びに行ったんだよ」
墓場は遊びに行くような所ではないと思うのだが、彼の中ではただの石の並んだ土地に過ぎないそうだ。
「でよう、まあ何事も無かったわけよ、当然だろ? そう思って俺は帰ったんだよ。そしたらさ、その晩に女の幽霊が出たんだよ」
この人から幽霊の話題が出てくるのは少し意外だった。オカルト関係は楽しむものと割り切っているのに何の恐怖感も感じず平然としている。
「その幽霊なんだがな、結構顔がいいんだよ。スタイルもなかなかのものでさ、金縛りになってたんだがじっくり見させてもらったんだよ。幽霊はただ恨みがましくこっちを見るだけだし、気にしなければ害なんてないんだ」
思わず『怖くないのか?』と聞いたのだが、『美人が枕元にたってるだけだぜ? 一々気にしないよ』と言ってのけた。
「それで、今でもその幽霊は出てくるんですか?」
「いやぁ……俺も毎日起こされたんじゃかなわないからさ、除霊が出来るか試してみたんだよ」
どうやら彼は除霊をもう試したらしい。気楽に語っているのでおそらく成功したのだろう。
「でさ、幽霊には酒と塩って聞くじゃん、寝る前に冷蔵庫からアルコール9%の缶チューハイの500ml感を一本出して、塩の方はわかんねーから適当に食塩を丼に入れといたんだよ」
あまりにも豪快すぎる除霊だった。その手のことに使う酒と言えば日本酒だが、まさかの缶チューハイとは……
「それで……効いたんですかね?」
「ああ、抜群に効いたよ。その晩も目が覚めて、女が枕元に立ったんだがな、酒と塩が置いてあるのを見て酒をゴクゴク飲みながらちびちび塩をなめてたんだよ。アル中だってあんな勢いで飲まないぜ? そしたらその幽霊の顔色が悪くなって……まあ元々悪いんだが……薄れて消えたんだよ。それ以来その幽霊は来ていないな」
なんとも怪談と呼んでいいのか分からない話だった。幽霊が酔い潰れるなんて聞いたことがなかったのだが、彼はいたって真面目に話している。
「幽霊たって結構昔に死んだんだろうからな。今時の酒事情になんて詳しくないんだろ」
そう言ってAさんは豪快に笑った。どうやら幽霊も時代の流れを読まないといけない時代になっているようだなと思う。