「怪談ねえ……そんなもの体験したことはないんだが、敢えていうならアレだ、俺はさ、ゾンビを見たことがあるんだよ」
ゾンビと来たか、日本には似合わない怪談だが、彼の年齢なら有名なゾンビゲームもそれなりに有名だったし、日本でもゾンビという存在が知られていた頃になる。そんなときの話だそうだ。
「いや、ゾンビってのが正確かどうかは分からんよ、ただ、あそこにいた連中の見解は幽霊というよりゾンビだという方が多かったね、実在するならって話だよ」
その頃、中学生だったNさんは夏の夜に墓場で肝試しを思いついたそうだ。悪乗りをしやすい友人たちはそれに次々と乗って、あっという間に肝試しをする集団が出来上がったらしい。
そして町の外れにある墓地に向かってそこで肝試しとなったのだが、一つ問題が起きた。皆懐中電灯など持っていないのだ。
いや、灯りが無いのが問題なのではない、灯りが必要無いのが問題なのだ。その墓地はしっかり整備されており、町外れでもしっかり街灯があるため灯りが無くても見えないなんて事は全く無い。
『なんだよつまんねーな』とか『ああこわいこわい』と棒読みする奴など、皆しらけてしまってつまらない肝試しになりそうだった。
ここに集まるような連中は幽霊の存在など信じていない、だから墓参りなどしなかったし、そこに街灯があるかどうかさえ確かめたことは無かったんだよ。
しらけたけどここまで来たんで物見遊山に墓を回っていたんだよ。そしたら人影があってさ、肝が冷えたよ。人間は相手にしたくないよな、補導されることだってあるし、そっちの方がよほど現実的で怖いだろ?
その人影が街灯に照らされて皆パニックになったんだ。その男は片手がもげて、腹に穴が空いてたんだ、生きている人間なわけないだろ?
で、みんなして大急ぎで逃げたんだ。散り散りに逃げたから結局それが何だったのかは分からないよ。ロクなもんじゃないのは分かるがな。
ゾンビって言うと噛みついてくるイメージだけどな、そのゾンビみたいなものはゆらゆら揺れてやっとたっているって感じだったな。
それだけの話で誰も被害に遭わなかったならそれで終わるんだがな……俺は翌日聞きたくもないことを聞いたんだよ。
その墓地の近くで交通事故が起きたんだとさ。男が車に轢かれたってこと以外は聞かなかったよ、聞きたくもなかったしな。
それならゾンビじゃなくて幽霊じゃないかって? そこはほら、当時ブームだったからってだけだよ。都市伝説なんてほとんどそんなもんだろ? だから俺たちの間じゃアレはゾンビだって事になってるんだよ。ただそれだけの話だ。
そうして話を終えた。真相は分からなかったが、しっかりと灯りがある場所でも怪異の類いはしっかりと出現するのだなと、私は思った。