Jさんは上京するまで山に囲まれた田舎に住んでいたそうだが、その時に見た奇妙なものの説明が付かないそうだ。
「気にするようなことでもないんですけど、子供の頃に妙なものを見ましてね」
彼が見た『妙なもの』の事を話してもらった。
「あの頃は都会とか想像がつきませんでした。こんなに高いビルがたくさんあるとか想像もつきませんでしたよ」
彼が都市部に来たのはその時見たものが原因だそうだ。
「悪いものではないのでしょうが、やはり気味が悪いんですよね」
そう前置きしてから彼はその時のことを話してくれた。
「アレは山の中で見たんです。山といっても管理されていて迷うようなこともなかったんです。ただ、その日に限って見たこともない場所に出てしまったんです」
迷ったということでしょうか?
「うーん……一応そういうことになるとは思うんですが、ただ迷ったにしてもその場所には何度山に入ってもそこに行けなかったんですよね。だから迷ったと言うかアレに導かれたんだと思っています」
そこで何かを見たんですか?
「ええ、そこはうっすら草が生えているだけの平地で、円形に伐採されていたんです、いや、木が元々生えていなかったんでしょうね。その中心に猿のようなものがいたんです。ただ……猿のはずなんですけど顔がどう見ても人間にしか見えないんですよ。ただなき声はどう考えても猿のそれなんですよ。きいきいわめいていましたが、私はそれを見て恐ろしくなって夢中になって逃げました」
それを見たせいで実家から出されたということでしょうか?
「いえ、そういうわけではなく、何故かその猿のようなものを見てから学校の成績が急に上がりまして、元はそんなに頭がよくなかったんですけどね、何の因果か東京の大学でも余裕で入れると模試で判定されたので両親そろって送り出してもらったんです」
つまりその生き物には御利益のようなものがあったんでしょうか?
「それは分かりません。ただ……SF映画で有名なものに、賢くなった猿が人間を支配した世界の話ってあるじゃないですか? 多分ですけどあんな風に私もあの猿に賢さを与えてもらったような気がするんですよね」
そうして彼は難関大学に合格して東京に出てきたそうだ。
まだ田舎にいた頃、図書館などでアレについて調べたが、あの猿についての話は何一つ判明しなかったそうだ。