平さんは毎年近所の神社に初詣を欠かさないそうだ。それにはきちんとした理由があるらしい。
「昔の話ですよ、おばあちゃんと一緒に初詣に行っていたんですが、その時に神様を見たんです」
正直、少し怪しいなと思った。この手の話は子供の思い込みによるものが大きい。
「あの頃はまだアレがなんだったのかは分かってなかったんですけどね、どうして神社にキツネがいるんだろうって思ってましたよ。あそこが稲荷神社だと知ったのは随分と後になってです」
キツネを見た、と言うことでしょうか?
「ええ、あの時は手を引かれておばあちゃんと一緒に初詣に行ったんです。まだ何の意味があるのかなんて分かってませんでした。ただあの時、視界の隅に白いものが一瞬見えたんです。そちらをキョロキョロすると真っ白なキツネが一匹いたんですよ」
なるほど、確かに稲荷神社らしいですね。
「その事を一緒に来ていたおばあちゃんに話したら、嬉しそうな顔をして私と一緒にお参りしたんです。いくらのお札だったかは覚えていないんですが、お賽銭に紙幣を入れていたのが印象に残っています」
そしてその年はお年玉がいつもより多くもらえて上機嫌だったそうだ。しかし良かったことはそれではないらしい。
「それから結構後の話なんですけどね、大学に入って割とすぐに夢の中にキツネが出てきたんです。あの時に見たキツネに違いないと思いました。なんとなくですがその頃を思いだして実家のおばあちゃんと話がしたくなったんです」
目が覚めてすぐ、実家に電話をかけたらしい。
「電話に出た母さんが涙声でおばあちゃんが病気だって言うんです。本人が『孫に心配をかけたくない』と強く言うので黙っていたそうで、私の方から電話をしたので話してもらえました」
急いで新幹線に乗って実家の近くの病院に向かったところ、ベッドに伏せった祖母との久しぶりの再会になったそうだ。
「おばあちゃんが『夢の中に御狐様が出てきてね……あんたは神に愛されてるんだねえ。私のことはいいから学校に戻りんさい』と言われました。結局、それが最後の言葉でした。翌日からせん妄に悩まされて会話にならなかったそうです。あの時私がギリギリで間に合ったのは奇跡だと未だに親戚の間で言われています」
そして彼女はそれ以来、毎年元旦に思い出の神社にお参りは欠かさないそうだ。今はお付き合いしている人がいるそうだが、もしかしたらこれも御利益なのかもしれないといって彼女は少し笑った。