いずれ投稿するかもしれない新作ネタの一つです、もし良ければ感想を教えてください〜
仮タイトル
『昔からめちゃくちゃ思い込みの激しかった幼馴染がある日突然自分の事を悪役令嬢であるとかなり本気で信じ始めた件』
以下本文
「ねえ、|瑛二《えいじ》。私ってもしかして悪役令嬢なのかな?」
「……|雪凪《ゆきな》が何を言っているのか1ミクロンも理解できないんだけど一体どうしたんだよ?」
いつものように幼馴染の|柚木雪凪《ゆずきゆきな》と一緒に学校から帰っていると突然そんな訳のわからない事を言い始めた。
「実は私って実は悪役令嬢なんじゃないかなと本気で思い始めちゃって……」
「どうやったらそんな発想になるのか常人の俺には全く分からないからもっと懇切丁寧に教えて欲しいんだけど」
「まず私って瑛二も知っての通り令嬢でしょ?」
「そこは間違ってないな」
雪凪の父親は中小企業とはいえ会社を経営している社長のため紛れもない社長令嬢だ。だがそれだけでは何故悪役令嬢になるのかが全く分からなかった。
「それに美人だけどクールで目つきがちょっと悪くて悪役顔ってよく言われるよね?」
「実際の中身はこんなアホっぽい感じだけど他人からの第一印象は大体そんな感じだな」
俺は長年の付き合いがある幼馴染だから雪凪がどんな人間かを知り尽くしてはいるが、初対面の相手からは怖がられる事が非常に多い。てか、こいつはよく自分の事を美人とかって堂々と言えるよな。
「後私の周りって瑛二も含めて美男美女が多くない?」
「自分で認めるのは少し恥ずかしいけどそれも合ってる」
俺は身長百七十二センチと高校二年生としては平均くらいだが顔は割と整っているため世間一般的には一応イケメンな部類には入るらしい。
まあ、これは高校に入学してから髪型や眉毛を整えたり肌のケアをしっかりした必死な努力の結果だが。そして俺や雪凪がよくつるんでいる友達は皆んな美形に分類されるような容姿をしている。
「ついでに花音ちゃんっメインヒロインっぽいと思わない?」
「言われてみれば確かに……」
俺達のクラスメイトである|松風花音《まつかぜかのん》はまるで絵に描いたような美少女だ。クラスや学校のメインヒロインと言われても全く違和感が無い。
「ほら、やっぱり私って将来破滅する悪役令嬢じゃん」
「いやいや、何でそうなるんだよ。さっきよりもっと具体的により分かりやすく話してくれ」
「だからこの世界は花音ちゃんが主人公の乙女ゲームの世界で、私は破滅フラグしかない悪役令嬢って事なの。今朝それを自覚した時は絶望しちゃった」
うん、やっぱり言っている事がめちゃくちゃ過ぎて意味が分からない。雪凪は昔から思い込みがかなり激しい性格だったがここまでぶっとんでいるとは思わなかった。
てか雪凪はそんなくだらない妄想が原因で朝から異様にテンションが低かったのかよ。
「雪凪は多分疲れてるんだ、今日は家に帰ったら美味しい物でも食べてそれからゆっくり休め」
「ち、ちょっと。瑛二は私の言ってる事を信じてくれないわけ?」
「当たり前だろ、逆に何で信じると思ったんだよ?」
さっきの雪凪の話を聞いた上で信じる奴がいたら凄まじい馬鹿か脳に何か深刻な病気があるに違いない。
「私って昔から全然嘘とかついた事ないと思うんだけど?」
「雪凪の場合は自分におかしいって自覚が全く無いからマジでタチが悪いと思う」
昔から雪凪は突拍子もない事を突然言い始めて周りを困惑させていた。あの頃から雪凪は全く変わっていないようだ。
「とにかく私はこののままだと破滅する未来しか待ってないの。今のうちに何か手を打っておかないと取り返しがつかない事になるんだって」
「てか、そもそも雪凪が読んでる漫画に出てくる悪役令嬢って自分の地位を鼻にかけて主人公とか周りを虐めたりしてたよな? もうその時点で全然違う気がするんだけど」
雪凪は友達やクラスメイトに対しては普通に優しいし、社長令嬢だからと言って尊大な態度を取ったりもしない。だからどう考えても雪凪と悪役令嬢はキャラクター的に一致しないのだ。
「それは私の無意識神ムーブのおかげで破滅フラグを一つ回避できただけだから」
「……そっか、それは良かったな」
これ以上まともに相手をするのも馬鹿らしくなってしまった俺はひとまず話を合わせる事にした。多分しばらくすれば満足すると思うし雪凪の好きにさせる事にしよう。そんな事を思っていると雪凪はそのまま話を続ける。
「でも破滅フラグは他にもたくさんあるからまだ油断はできないんだよね」
「じゃあ頑張って回避しないとな」
「一人だと大変だから瑛二も可哀想な私の破滅フラグ回避を手伝ってくれない?」
「えっ……?」
俺は思わずそう声を漏らした。どうやら雪凪は俺を巻き込むつもりらしい。ただ適当に話を合わせるだけならまだしも具体的に何かを協力するのは正直面倒だ。そもそも一体俺に何を手伝わさせる気だと言うのか。
「うん、瑛二もすっかり乗り気みたいだし早速明日からよろしく」
「あっ、おい!?」
話しながら歩いているうちにいつの間にか雪凪の家の前に着いていたらしい。雪凪は一方的にそう言い残してそのまま家の中へと入っていった。
一体俺のどこをどう見たら乗り気に見えたというのか本当に謎だ。そして明日からマジでどうなるんだよ。俺はそんな気持ちでいっぱいだった。