• 異世界ファンタジー

外伝 第3話 ジングルベルの鐘

前回までとは異なり、時系列が最近のものです。
外伝では時系列も反復横とびしますのであしからず。

―――――

 イレーネ帝国南端の港町、ヘルツブルクにレーベという少女がいた。
彼女は最近彼女の父親と母親に連れられてイレーネ帝国に引っ越してきていた。
引っ越しからしばらく時間も立って、彼女は島内の小学校に入学し、友達もできていた。

 レーベの父親はヘルツブルクに作られた商人ギルドで大陸との貿易をやっており、家にはあまり帰ってこなかった。
だが今日だけは特別で、父親が休みを取ってきたので、家族揃って島の中心までお出かけすることになっていた。
だから彼女はまだ朝6時だと言うのに楽しみでもう起きていた。

「レーベ! 起きているなら朝ご飯にするわよ〜!」

「はーいお母さん!」

 レーベは自分が早起きだと思っていたけれど、母親はもっと早起きであった。
まだお日様が出ていないうちから起きて、毎日彼女たちの朝ご飯を作っている。
そんなお母さんの作るご飯が彼女は大好きであった。

 レーベの父親は昨日の晩遅くまで仕事をしていたのでまだ寝ているようだ。
彼女はご飯を食べに行くために1階に降りようと廊下を歩いている時、窓の外をふと見た。
するとそこからは、チラチラと空を舞う雪が見えた。

「わぁ、雪!」

 レーベは雪を見ると大はしゃぎし、朝ご飯のことなど忘れて外へと飛び出していこうとした。
彼女の家の玄関には日めくりカレンダーが掛けられており、それは12月25日を指していた。
イレーネ島にはホワイトクリスマスが訪れていた。

「こらレーベ、そんな格好で外に飛び出したら風邪を引いてしまうでしょ! 先に朝ご飯を食べてからにしなさい」

「はーい……」

 レーベは母親に家の外に出ることを阻止されて家の中へと戻っていき、食事のテーブルに付いた。
そんな彼女の前に母親はあったかいスープの入ったボウルを置く。
その時階段を踏み鳴らす音が聞こえ、後ろを見ると父親が起きていた。

「あらあなた、おはようございます」

「あぁおはよう。レーベもおはよう」

「おはよう、お父さん! ねぇねぇ聞いて、外で雪が降っているよ!」

「雪が降っているのか。どうりで冷えるわけだ」

 父親はそう言いながらも、子ども心を忘れていないので雪を見るために玄関を開けた。
その瞬間冷え切った風が部屋の中へと入ってくる。
雪を見た父親は満足して扉を閉めようとしたが、その時玄関口に何かが置かれていることに気がついた。

「うん? なんだこれ?」

 綺麗にラッピングされた箱を父親は持ち上げた時、上面に『親愛なるレーベ嬢へ』と書かれていることに気がついた。
よって彼はそれがレーベへの贈り物であるということに気が付き、家の中へと持ち帰る。
急に湧いてきた、綺麗にラッピングされた箱にレーベは興味津々であった。

「お父さん、それは何?」

「わからん。でもレーベにと書いてあるからお前へのプレゼントじゃないのか?」

「本当!? お父さん早く貸して!」

 レーベは急いで父親の元へと走っていき、プレゼント箱を半ば強引に引ったくった。
それを彼女は食卓の上に乗せ、彼女自信は椅子に載って開ける体制を整えた。
彼女の父親と母親もまた何が入っているのか気になるため、彼女の後ろで開封の様子を眺める。

 ビリビリッ!

 レーベはせっかくの綺麗なラッピングをビリビリに破き、中の箱を露出させた。
彼女はまだ中身が出てこないことに若干イラッとし、中の箱も引き裂こうとする。
だがその時、彼女の父親がその手を止めた。

「お父さんなにするの! 開けれないじゃない!」

「バカお前、この紋章が見えないのか!?」

「紋章?」

 父親はその箱の上面に刻印された紋章を指さして言う。
それはイレーネ帝国の国章であった。
レーベの父親と母親はその存在を知っていたが、レーベは知らなかったため無造作に開けようとしていたのだ。

「いいか、ゆっくり丁寧に開けろ。丁寧にな」

「う、うん……」

 レーベはさっきまでと打って変わって慎重な手つきで箱を開封する。
封をしているシールを剥がし、彼女はそっと箱の蓋を開いた。
すると中からは、こんな日にぴったりな純白のクマのぬいぐるみが姿を表した。

「わぁ、くまさん! かわいい〜!」

「そこに手紙が入っているぞ。なになに……『メーリークリスマス! 来年も良い子でいるんだぞ?〜ルフレイサンタより』」

「あなた、これって……」

「あぁ、皇帝陛下の直筆の手紙だ……」

 レーベはかわいいクマのぬいぐるみに喜んでクルクルと踊り、父親と母親は皇帝直筆の手紙におののいていた。
彼らはすぐに額縁を持ってきて、手紙に汚れがつかないように丁寧に入れた。
なんとか箱もきれいに保管することができると、彼らはほっと一息ついた。

「まさか皇帝陛下直々の贈り物とは……でもなぜ?」

「まさかレーベが皇帝陛下に見初められて求婚されているとか……?」

「いやまて、メリークリスマス、クリスマス……思い出した! クリスマスは今日行こうとしている島の中心部で行われるお祭りのことじゃないか!」

「あら、そんなお祭りがあったのね。知らなかったわ」

 父親は商人ギルドの同僚からクリスマスの存在を聞きつけ、せっかくならと休みを取ってきたのだ。
職場の同僚達はクリスマスがなにかは知らなかったが、子供がいるのが彼だけということもあり「休みの時の分の仕事はまかせろ!」と言って彼が休みをとっても大丈夫なようにしてくれていた。

「じゃあそのお祭りがあるから、子どもたちにプレゼントを配り回っているとかかしら?」

「おそらくそうだろうな。しかし皇帝陛下はどこまで慈愛深い方なのであろうか……」

「本当よね。この家を提供してくださったのも陛下、仕事の場所を提供してくれているのも陛下、給金を払ってくれているのも陛下、レーベが教育を受けることができるように学校を整備してくださっているのも陛下。どれだけ感謝すれば足りるのかしら?」

「本当にこの島に引っ越してきてよかったよ……」

 彼らはその後朝ご飯を食べ、出かけるための支度を整えた。





 ゴトン、ゴトンゴトン……

 イレーネ島を走る電車の中にレーベたち一家は乗り込み、島の中心部を目指した。
電車は国民には無料で提供されており、誰もが利用できるようになっている。
そのため、クリスマス祭に向かう大勢の住民が乗り込んでおり、電車内は混み合っていた。

「お父さん、なんだか混んでいるね」

「あぁ。まぁお祭りがあるというんだったらみんな参加したいだろうし仕方がないな」

 レーベは、もらったくまのぬいぐるみを抱きしめながら電車に揺られている。
そしてちょうどトンネルを抜けた時、彼女の目は外の風景に釘付けになった。
ちょうどこのポイントからはイレーネ湾に停泊する艦船が一望できるのだが、今日は全艦電飾を施しており、粉雪も相まって非常に幻想的に映っていた。

「わーっ! 見て見てお父さん! すごくきれいだよ!」

「これは……息を呑むほど綺麗だな」

「本当ね。大陸にいたときには考えられないような光景よね」

 レーベの家族は全員車窓から見える光景に心を奪われていた。
だが少しすると艦艇群が見えるポイントは過ぎ去り、町中へと電車は入っていく。
だがそこから見える光景もまた言葉に尽くしがたいものであった。

 電車の沿線には全て電飾が施され、綺羅びやかな空間を演出している。
雪の雲によって太陽光が遮られているが、その分の光を電球は補完していた。
その光の街道を抜けると、電車はイレーネ中央駅へと到着する。

「ほらレーベ、降りるよ」

「はーい」

 電車から降りたレーベ一家は、人でごった返す駅舎を抜け、王都の中央通りに出た。
中央通りには同じくクリスマス祭に参加する子供連れの家族が大勢あるきまわっている。
その活気に彼女たちは圧倒された。

「あらー。こんなにすごい人が来ているのね」

「俺もここまでだとは思っていなかったよ。レーベ、さぁ行こうか」

「うん!」

 レーベのお父さんの提案で、彼らはまずは宮殿の方へと歩いていくことにした。
レーベとは絶対にはぐれないと、両親は手をぐっと握って人混みの中を歩く。
しばらく歩いていると、まずは凱旋門の下にたどり着いた。

「すごい大きい門だね!」

「そうだね……おや? 何かイベントでもやるのであろうか?」

 凱旋門の下に人が溜まっていることに気がついたお父さんは、歩く足を止めて何があるのかを確認する。
すると、ちょうどパレードで行進しているイレーネ帝国陸軍の姿が見えた。
レーベも見せてほしいとお父さんに言うと、彼は彼女を快く肩車してあげた。

「どうだい? 見えるかい?」

「うんっ! 赤い服を着た人たちが行進しているよ!」

「あれはイレーネ帝国の陸軍だよ。この島を守っているんだ」

「へー。すごい人たちなんだね!」

 普段の軍服ではなく、儀礼用の華美な服装に着替えた陸軍兵が行進している後ろで、サンタの格好に身を包んだ男が屋根を外した馬車に乗ってやってきた。
彼は優しそうな顔をして手を振っているが、その後ろの770に乗る男2人は、その光景を見て笑っていた。
今サンタのコスプレをしているのは、じゃんけんで負けたハルゼー大将であり、後ろで笑っているのはじゃんけんに勝ったロンメル大将とルーデル大将であった。

「HAHA! 傑作だなこれは!」

「全くだ! 腹がよじれるわ!」

「お前たち……覚えていろよ?」

 だがそんな事を知らないレーベは、手を降っているハルゼー大将に手を振り返す。
彼もまた手を振り返されていることに気が付き、レーベに向かってぱちりとウィンクでお礼を言った。
レーベのお父さんはそろそろ後ろがつっかえてきたからと、先に進むことを提案し、レーベを肩から下ろした。

 凱旋門を通りぎてそのまま歩いていくと、宮殿前の広場へとたどり着く。
だが先程のパレードに人が集中しているおかげで、ここにはあまり人がいない。
しかし広場の中心には大きなクリスマスツリーが飾られており、パレードと遜色ない派手さだ。

「こっちも綺麗ね」

「本当だな。これは電気を使って光っているんだろう。こちらに来てから『電気』というものに初めて触れたが驚くほど素晴らしいものだな」

「調理にも電気、お洗濯にも電気、本当にすごい技術ね……」

「? 難しいことはよくわかんないけど、綺麗だからおっけー!」

 そう言ってぴょんぴょんと跳ねるレーベを見て、両親はくすっと笑う。
父親は「そうだな」と言ってレーベの頭を撫でた。
彼女もまた嬉しそうに顔を綻ばせる。

「ほら、せっかくここまで来たんだし皇帝陛下に挨拶していこう」

 父親はレーベの手を引っ張って宮殿前の門まで歩いていく。
門の横には近衛兵が立っており、近づいてきた彼らに少し注意を傾ける。
だがそれもすぐに解けることとなった。

「ほら、お辞儀しなさい」

「あとそのぬいぐるみの御礼もよ」

「はーい! 皇帝さんありがとー!」

「はい、よくできました」

 そのやり取りに近衛兵も思わずほっこりとする。
だが職務をまっとうしなければいけないので、彼らはニコッと笑いそうになるのをこらえる。
そんな彼らに、レーベの父親は軽く頭を下げ、レーベを連れて門の前を離れた。

「次はどこに行こうか? せっかくだ教会でも行くか?」

「あら、良いわね。この安定した平和な生活を与えてくださるイズン様に感謝しなくちゃね。レーベも良い?」

「うんっ!」

「じゃあ行こうか。確か教会はこっちのはずだ」

 レーベの父親は再び先頭に立って歩き始める。
だが教会に行くためには再びパレードをしている道を通らねばならず、レーベを見失わないために父親は彼女を肩に乗せた状態でそこを通過することにした。
なんとか人並みをかき分けて進んでいた時ーー

「あっ! 私のくまさん!」

 レーベが大事に抱えていたくまのぬいぐるみは、横を通り過ぎた若い男によってひったくられた。
その男は人並みを猛スピードで走り抜け、逃走を図る。
レーベを肩に乗せていた父親は走り出すこともできず、それを見ていることしかできなかった。

「お父さんっ! なんで取り返しに行ってくれないの! 私のくまさん!」

「そうは言ったって、お前を乗せているから行けないんじゃないか。第一ちゃんと持っておけばよかった話だろう?」

「いーやーだー! わたしのくまさんーっ!」

 レーベは大粒の涙を流しながら犯人の逃げていった方向に手を伸ばす。
周りの人間は逃げていく犯人を捕まえようとはせず、皆して無視を決め込んだ。
父親は身動きを取ることも、レーベを泣き止ませることもできない状況にため息をつく。

「はぁ……どうすれば良いんだ……」

「Mann da drüben! Nicht bewegen!」

 突然聞こえてくるドイツ語。
だがその場にいたものは誰も何と言っているのか理解できず、不思議そうにそちらを見た。
するとそこには、取り押さえられている先程のひったくりの犯人がいた。

「まったく……盗みなどして何の意味があるんだか」

 犯人を取り押さえながら不思議そうな顔をしているのは、帝国大学教授であるグデーリアン上級大将であった。
彼は赤色の襟を見せながら、軽くため息をつく。
犯人はなぜこの老人に抵抗できないのかと不思議に思いながらジタバタともがく。

 それを肩の上から見ていたレーベは、嬉しそうに喜んだ。
父親に早くその方向に行くように上から指示を出し、何が起こっているのかよくわからない父親は不思議そうにそれに従って人混みをかき分けながら歩いていく。
だが直ぐになぜレーベが喜んでいるのかが分かった。

「わたしのくまさん!」

 レーベは父親の肩から下ろしてもらうと、一目散にグデーリアン上級大将のもとに駆け寄っていく。
急に足元にやってきた少女にグデーリアン上級大将は困惑するが、直ぐに彼女の目がくまのぬいぐるみにいっていることに気がついた。
彼は犯人の腕の中からくまのぬいぐるみを取り出し、奇跡的にどこも敗れていないぬいぐるみに付着した汚れを払い落とす。

「このぬいぐるみはお嬢さん、貴女のかな?」

「そうよ! そのくまさんのぬいぐるみは私のもの! なんたって皇帝さんにもらったのよ!」

「そうか……皇帝さんに、ね」

 レーベはそのままくまのぬいぐるみを受け取ろうとするが、グデーリアン上級大将はまだ渡そうとしない。
そんな彼にレーベはむすっとし、早く返してくれるよう手を差し出した。
グデーリアン上級大将は彼女の手にそっとぬいぐるみを渡すと、手を離す前に彼女に言った。

「いいかいお嬢さん、このぬいぐるみは皇帝陛下からの下賜品だ。もう絶対に無くすんじゃないぞ? おじさんとの約束だ。守れるかい?」

「うんっ! 絶対に守るよ!」

「そうか……いい子だぞ」

 グデーリアン上級大将はぬいぐるみを手放し、レーベの頭をそっと撫でる。
彼女は少しくすぐったそうにはにかんだ。
その時、遅れていた母親を連れてきた父親は、グデーリアン上級大将を見て驚愕する。

「その服……こらっレーベ! 軍人の方に迷惑をかけてはいけないでしょう!」

「でもこのおじさん、私のためにくまさんのぬいぐるみを取り返してくれたんだよ?」

「私は何の問題もありませんよ? 子どもはこれぐらい無邪気であるほうが良いものです」

「は、そうは言いましても……」

 父親は明らかに位の高そうなグデーリアン上級大将に冷や汗をかく。
彼の目には、栄光の勲章が恐ろしいなにかに見えていた。
だがグデーリアン上級大将は「ははっ!」と笑い、父親に言う。

「それに軍人と言っても”元”ですな。今はただの帝国大学の教授です」

「失礼ですが、階級を伺ってもよろしくて?」

「階級ですか? 最終階級は上級大将ですな。貴族で言うところの……公爵ぐらいでしょうかな? 例えが正しいかわかりませんが」

「じ、上級大将……公爵……」

 あまりの位の高さに、父親は倒れそうになった。
そんな彼を母親はそっと支える。
そしてレーベは何も分かっていないので、不思議そうに彼女の父親を見ていた。

「まぁそんな肩書、気にしなくてよいですよ。それよりも皆さんはクリスマスを祝いに?」

「え、えぇ……一応は。この子を一度ここに連れてきてやりたかったというのもありますが」

「そうですか。この人混み、歩くのも大変でしょう。良ければあれをお使いになられては?」

 グデーリアン上級大将はそう言って道路の方を指差す。
そこには、彼の載っていた”グロッサー”メルセデス770カブリオレがあった。
数台作られた770よりも車体が延長されており、巨体となっている。

「あ、あれにですか!? それは少し気が引けるといいますか何と言いますか……」

「なに、別に何も気にしなくて良いのですよ。お嬢さんはあれに載ってみたいかな?」

「うんっ!」

「ハハ! 決まりですな」

 レーベが満面の笑みでそう答えたため、両親は苦笑いして応じるしかなかった。
グデーリアン上級大将も笑いながらレーベをエスコートし、グロッサー770に乗せる。
両親も後部座席に便乗し、グデーリアン自身は前部座席に乗った。

「さて、どこに行きましょうかな?」

「で、では教会で……」

「教会……あぁ、大聖堂のことですな? 運転手、前の車列の横をいい感じにすり抜けていけ」

「分かりました。やってみせましょう」

 それと同時に運転手はアクセルを踏み、グロッサー770の巨体は滑らかに加速を始める。
そしてグロッサー770はパレードの列の横を掠め、前へと躍り出た。
両親は当たらないかヒヤヒヤしていたが、レーベはそこから見る景色に胸を躍らせていた。

「すごい……周りに人がいっぱい!」

「確かにそうですな。だがこんな事ができるのも皇帝陛下のおかげなのですぞ?」

「皇帝さんって本当にすごいんだね!」

「えぇ。すごいですとも」

 そんな事を言っている間にグロッサー770は教会前に到着し、車を路肩に寄せる。
そして運転手は車から先に降り、後部座席の扉を開けた。
それに続いて両親が先に降り、続いてレーベが降りた。

「あれ? おじさんは降りないの?」

「えぇ。私はまだやることがあるのでね。というかあんなことをしたからには始末書物だな。ハハ!」

「それは笑い事じゃないのでは……」

 父親は心配するが、当の本人は愉快そうに笑っていた。
そして運転手は後部座席のドアを締め、自身の席に戻る。
グデーリアン上級大将を乗せたグロッサー770は帰ろうとしていた。

「お嬢さん、またいつか会いましょうぞ」

「おじさんありがとう! 今度はどこで会えるの?」

「そうですな……帝国大学の参謀科、ですかな?」

「分かった! じゃあ私はそこに行く!」

 そういうレーベにグデーリアン上級大将はくすっと笑い、手を軽く降った。
そしてそのままグロッサー770は発進し、遠ざかっていく。
グロッサー770が見えなくなるまで両親は頭を下げ続けていた。

「なんだかすごく良い方だったわね」

「本当その通りだ。やはりこの国は素晴らしいな」

 両親は自分たちの受けた厚遇に改めて驚き感謝する。
だがレーベはそんなことには興味がないため、早く教会に入りたそうにしていた。
それを察した両親は、彼女の手を引いて教会の中へと入っていく。

 教会の中もクリスマス一色に染まっており、あちらこちらにセイヨウヒイラギを模した装飾が置かれている。
ちょうど今はイズン教の儀式が終わったところであり、退屈なことが嫌いなレーベには良いタイミングであった。
彼女らは空いている長ベンチを見つけ出し、そこに腰を下ろす。

「今から何が始まるのかしら?」

「さぁ? ちょっとよくわからないな」

 両親は何が始まるのかわからず、不思議に首を傾げていた。
すると、教会のイズン像の後ろの空間から、サンタの服装に身を包んだ子どもたちがでてきた。
その子達は前、イーデ獣王国にて保護された子どもたちであった。

「続いては、イレーネ島教会付属児童学校生による演奏、『ジングルベル』です。ぜひお聞きください」

 教会の中にアナウンスが流れる。
その声の元は、この教会で神官となっていたミラのものであった。
彼女は預かっている子どもたちの世話役も一緒にこなしていた。

「ではいくよ。いっせいのーで!」

 ランランラン♪ ランランラン♪――

 教会の中にかわいらしいハンドベルの音が響き渡る。
その音は教会の中にいた人々の心を癒やした。
クリスマスは世界を超えて、人々に幸せをもたらした。

2件のコメント

  • 如何なる形であれ、島にいる者は全て国民であるとして、クリスマスという安らぎを提供するルフレイさんの心意気とそんな優しさに触れた一組の家族とナイスミドルなグデーリアン上級大将の物語。
    件のレーベさんも何れ、この国を支える一人になるのかと思えば、そんな彼女の後日談も読んでみたいですね。
  • 誤字報告です。
    グデーリアン上級大将がレーベさんのくまのぬいぐるみを取り返した後の描写。

    彼は犯人の腕の中からくまのぬいぐるみを取り出し、奇跡的にどこも敗れていないぬいぐるみに付着した汚れを払い落とす。

    →彼は犯人の腕の中からくまのぬいぐるみを取り出し、奇跡的にどこも"破れて"いないぬいぐるみに付着した汚れを払い落とす。
    となると思います。
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