石宬瑞雲が、秘薬の探索を始めます。
ちょっと今回のエピソードに出てくる「名前」について、ちょっと設定というか、そのへんをお話します。
「ヒノシシ」…約百年前にこの里に現れた怪物。杉の木ほどの高さまで炎を上げて、転がり駆け下って田で畦を起こしていた牛にぶつかって燃え上がり果てました。その跡には、大きな塩の山ができていたそうです。ヒノシシという名前はこの小説でのオリジナル名称ですが、日本の古い妖怪「一本だたら」とも伝わる妖怪です。一本だたらは、鬼太郎などでよく知られた太い片足の姿で描かれますが、燃え盛る猪が変じたとも伝えられます。古くから奈良県に伝わる妖怪です。
「御祭神」…瑞雲が、「ヤマノクチの社の御祭神」について老猟師に尋ねています。老猟師は、堂守のくせにそんなことに疎く答えられていません。特に本編のストーリーには関係なかったので詳述しませんでしたが、設定上では「天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊・ニギハヤヒノミコト」と「荒波波木神・アラハバキノカミ」としていました。ニギハヤヒは、古事記にも登場し、国を譲った側の神ですが、男神の太陽神です。添(大和の国)の最東にひっそりと残る太陽の神という位置づけにしています。古事記のエピソードと逃げていくしかない十寸を重ね合わせたエピソードもちょっと考えたのですが、お蔵入りでした。アラハバキは、記紀には一切登場しない謎の神ですが、一説では縄文時代から続く神武東征以前の縄文の神…など好奇心をくすぐる存在です。こちらも滅びと上古の存在として十寸に重なるエピソードを考えていたのですが、この二柱の神様編でもう一冊書けそうなので、こちらも塩漬けにしました。
「弓手」…左手、左側という意味です。老猟師は無意識に使っていますが、武芸者が使う言葉でした。弓を持つ手「ゆんで」で、右手は「馬手(めて)・手綱を引く手」だそうです。瑞雲もこんな老猟師の話し方や仕草の端々に違和感を感じています。
「五百棲の山」…塩田万兵衛が使っていた「入らずの山」の古い名称としました。読み方は同じ「いらずのやま」です。因みにこれは、白土三平さんのカムイ伝から頂きました。五百棲の山の伝説が生まれた由来も後述します。
この話以降、展開が大きくなっていきます。どうぞお付き合いください。皆さんの応援が頼りです。よろしくお願いします!