記録①

 私の実家は二階建ての一軒家だ。周りより土地が若干くぼんでいるため大雨が降ると道路は浸水する。そういう理由で、近付の家は事前に盛り土をしてから家を建てる。その一環かは知らないが、うちは二階に家の主要部分、つまりリビングダイニングやら、キッチンやらが設えれていた。
 夏になるとインターホンが鳴る。いや、いくらろくでなしの集まりだからといっても、春だって冬だってインターホンくらい鳴るが、夏になるとよく鳴るのだ。そして大抵、玄関には誰もいない。
 大学生は人生の夏休みとよくいわれるが、その夏休みが夏休みを取ればどうなるか――まあ大抵は暇を持て余して家にいる。飼い猫が死んだセミのような寝相で転がっているのを眺めていると、インターホンが鳴った。カメラで相手を確認するが、誰もいない。そんなことが数度あった。正直、怖かった。ついでに、イラッとした。仕様なので仕方ないが、インターホンというのはやけに音が大きくて、鳴るたびにびっくりする。
 次にインターホンが鳴った時、やはりカメラには誰も移っていなかったので、私は出窓に飛びついた。ドアホンから出窓までは大体10歩程度。立地と見晴らしからして、どれだけ足の速い馬鹿でも、うちの敷地内に逃げていなければ絶対に見つけられる。視力0.4の目を凝らして景色を覗くと、そこには人影もなかった。慌てて耳をすます。敷地内には砂利が敷き詰められているので、誰かがいれば確実にその足音が聞こえるのは、十数年の生活で分かっていた。しかし、無音。
 もうわけがわからない。キモチワルッ。とりあえずそんな内容をツイートして、仕方ないので猫をこねた。同じ夏にもまだ機会はあったので、その都度窓を確認して耳をすましたが、誰もいない。ベランダから覗いたこともあったが無意味だ。
 これが毎年、毎年、4年間、飽きもせずに起きた。3年目から怖いよりも鬱陶しいが勝るようになり、覚えのないインターホンは無視するようになった。なんなら、オンラインで講義を受けている最中に来た配達員が、扉をガチャガチャしてきた時の方がよっぽど怖かった。

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