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【解説】稲妻と星々【備忘録】

第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト応募作、二十句連作「稲妻と星々(https://kakuyomu.jp/works/16817330658016873924)」の解説ページです。正直俳句って読んでも「わっかんねー!」ってなることが多く、自分の作品も数年後に読み返して「わっかんねー!」ってなる自信があるので忘れないうちに解説を書きます。

初めて俳句を詠むにあたって色々と調べたのですが、季語って6000もあるんですね。思ってた100倍多くてビビり倒しました。ここで一句。

6000にブラウザそっ閉じ五月かな

解説:6000という数の多さに圧倒され、思わず一旦諦めて外を眺めた。風が気持ちよくて清々しいなぁ。
最後を「五月かな」と「麦の秋」で迷ったのですが、「かな」使ったほうが余韻がでる?と思い「五月かな」にしました。有識者意見求ム。


そんな感じでビビったりうんうん言ったりしながらできた「稲妻と星々」ですが、第30回電撃小説大賞応募作の「僕の勇者のいちばん長い日 運命の夜と最後の魔王(https://kakuyomu.jp/works/16817330653800201651)」執筆中の気持ちをテーマとしています。そちらの主要キャラの名前を星の名前から付けているため、星が出てくる句が多くなりました。
句の順番は執筆中の気持ちの変化に合わせています。本当は季語順とも合わせられたらよかったのですが、どうあがいても氷室は夏の季語だったので諦めました。

それでは以下解説。



♢ ♦ ♢



1.秋過ぎてきみもひとりかアルタイル 

解説:季語は「秋過ぐ」、晩秋、10月。アルタイルは拙作の主人公の名前でもあり、わし座1等星、いわゆる彦星であり夏の大三角の一角です。牽牛星ともいいます。なんか「牽牛星」は初秋の季語なんですが、「アルタイル」は季語じゃないっぽいんですよね(たまたま私が見た歳時記に入ってなかっただけかもですが)。ここでは固有名詞でもあるので季重なりじゃないと言い張ります。
この句の意味ですが、去年の10月ごろ仕事を辞めたんですよね。そんな時にふと見上げると、アルタイルだけ光っていて。社会との繋がりが切れ「これからどーしょー」ってなってる自分ともう秋も終わるのにひとり輝く彦星を重ねました。



2.星月夜 よろしくどうぞ 地上より 

解説:季語は「星月夜」、三秋、8~10月。電撃への応募とプロットやキャラの名前を決めた時期。初めまして、よろしくねの気持ちを込めた彼らへのお手紙です。



3.寒雷やわたしの怠惰を追い立てて 

解説:季語は「寒雷」、三冬、11~1月。応募を決めたもののダラダラとして執筆が進まない時に、喝を入れるように雷が鳴り響く様。



4.星隠し見下ろし嗤う冬三日月 

解説:季語は「冬三日月」、晩冬、1月。昨年から北海道に住んでいるんですが、曇りの日が多くてびっくりしました。気持ちのいい青空の日が本当に少ない。まだやる気が出ずロクに執筆せずうだうだしている自分と、星(=キャラたち)を隠す曇り空を重ねました。歳時記によれば冬三日月は「刃物のような鋭い印象がある」だそうで、書かない自分を月に冷たく嗤われているイメージです。



5.氷盤の向こうで胸張る大樹かな 

解説:季語は「氷盤」、晩冬、1月。氷盤は凍った湖のことです。
拙作では主人公イルのイメージを「雪の積もった大樹」、もうひとりの主人公ロキのイメージを「暗く、深く、静かな夜の湖」としています。堂々と立つ大樹へ湖の底から手を伸ばす、でも表面が凍っているせいで届かない、彼は自分とは違う世界の人間に思える。そんなロキの気持ちを詠んだ句です。湖に関する季語を調べてたら氷盤が出てきたので使ったのですが、氷はいつか解けるのも含めてめちゃくちゃよい。

ボツ案:
氷盤の向こうのきみに手を伸ばし
氷盤を除いて探すきみの声
冬の湖《うみ》うつるわたしの表情は
氷盤の向こうはとても美しく見え
雪積もりなお胸を張る大樹かな

始めは湖の句と大樹の句は別々で、両方とも私から見た句で作ってました。



6.現実《コンクリ》と空想《おおぞら》くるり送りまぜ

解説:一句くらいはラノベ特殊ルビ入れてぇ~~~~!!!!って気持ちでできたのがこれ。ガチで俳句やってる人に怒られそう()。そのまま「げんじつ」「くうそう」って読ませてもいいんだけどね、せっかくのネットなので(?)。ちなみに普通に読んでもわけわからんルビでよんでも字数合うように地味に頭捻りました。最初は「《リアル》」「《ファンタジー》」で考えてた。最終的に「《コンクリ》」「《おおぞら》」になったのは字数の関係もあるけど、俳句には「取り合わせ」なる技法があるそうで、それも意識してます。
そして季語は「送り南風《まぜ》」、初秋、8月。みなさん気づきましたか、「まぜ」は「南風」と「混ぜ」のダブルミーニングです。
小説を書くというのは、自分の頭の中だけにある空想を現実に出力するという行為で。四六時中自分の頭の中をのぞいていると、どっちがリアルでどっちがファンタジーなのかわからなくなったりします。そんな気持ちを「送り混ぜ」に、それでも自分を後押ししてくれるような風を「送り南風」に込めました。非常に芸術点の高い句です。



7.熱を持て氷室の花やいざ咲かん 

解説:ヒップホップが好きです。普通に曲も好きなんですが、彼らは「○○が登場!」「トラックメーカーは××!」みたいに歌詞の中に自分たちの名前を入れることがあって。そういう文化も含めて好きです。そういうわけで、私の名前でもある「氷室」の入る句は絶対に入れたかった。
季語は「氷室の花」、晩夏、7月。氷がつくと冬のイメージですが、「氷室」は夏の季語なんですね。
氷の中に保存されたつぼみが周りを溶かして咲くイメージ。執筆が波に乗りハイになってるときの句です。


8.稲妻よ私を選べと指を走らせ 

解説:季語は「稲妻」、三秋、8~10月。前の句に続きハイになりながらキーボード打ってるときの句です。稲妻は電撃小説大賞の比喩。これだけ「わたし」が「私」で「わたし」に統一するか悩んだのですが、「私」のほうがアツい感じがするので漢字にしました。誤字じゃないです。



9.もういくつ寝ると締切じゃあオール 

解説:季語は「オール」です(言い張る)。「よなべ」「夜仕事」が晩秋の季語なんでオールも同じです()。「夜仕事《オール》」にしようかとも思いましたが、ラノベ特殊ルビは一句あれば十分なんでやめました。単純に字数合わないってのもあるしカタカナで「オール」にした方がインパクトある気もするし。
意味はまんまです。



10.カーテンを払えば微笑む有明月 

解説:前の句の続き。季語は「有明月」、中秋、9月。有明月は明け方になっても残ってる月のこと。オールして窓の外を見ると明るくなっていて、浮かぶ有明月が微笑んでいるように見える。そんな情景を詠みました。4句目と対の句でもあります。



11.星冴えてあれがきみだよプロキオン 

解説:季語は「星冴ゆ」、三冬、11〜1月。プロキオンは拙作のもうひとりの主人公の名前であり、こいぬ座の星の名前でもあります。意味はそのまんま。彼と手を繋いで「きみの名前の星だよ」と空を指差すイメージです。



12.シリウスやわたしのかみさま星の王 

解説:季語は「シリウス」、三冬、11〜1月。これはちゃんと歳時記に載ってた。シリウスは拙作主要キャラのひとりであり、おおいぬ座の一等星、そして太陽を除くと全天でいちばん明るい星です。
作中でも神のようなポジションとして登場するので「わたしのかみさま」、また前述の通り最も明るい星なので「星の王」と詠みました。冬の夜空に輝くシリウスを讃える句です。すべてを正直に言うとどうしてもシリウスを入れたかっただけで意味があるかないかで言えばない(台無し)。



13.「もう少し」きみの手握る神渡し 

解説:季語は「神渡し」、初冬、11月。歳時記によると、神渡しとは「陰暦十月の頃の西風。神々が出雲に参集する際、神々を送るために吹く風という意味」だそうです。
冷たい風に吹かれて帰ろうとする君の手を「もう少し一緒にいたい」と言って握る可愛らしい恋心の句です。嘘です。
執筆も終盤になりラストが見えてくると、途端に書き終わってしまうのが寂しくなります。彼らの旅が終わるのが、そして受賞できないと彼らの続きを書けないというのが、本当に本当に寂しくなります。(自分の性格上たぶん必要がないと続きは書かない)。けれど完結させないと応募はできないわけで。神を送る風に吹かれるようにきみが必ずいなくなってしまうことはわかっているけれど、本当はまだきみと手を繋いで旅をしていたい。そんな気持ちを込めました。

ボツ案:
もう少しまだ踊ってたいきみと手を取り

こっちの方がわかりやすいと思うんですが、これだとこの句だけ季語が入らなくなっちゃうのでやめました。半分くらい季語がないならいいけど一句だけないのは許せねえ。そんなわけでいい感じの季語を探していたら「神渡し」があり、意味もいい感じだし直前の句に「かみさま」入るしいい感じになるかなーと思って採用しました。

ちなみに、解釈は自由なので。嘘解説の通りに受け取ってもらっても全然大丈夫です😉



14.十色《といろ》混ぜ覆う気持ちは雪景色

解説:色を混ぜたとき、絵の具みたいな減算混色だと黒になるんですが、光みたいに加算混色だと白になるんですよ。(詳しくはググってください)。ところで拙作はゴリゴリのファンタジーなので当然のごとく魔法が飛び交います。魔法の種類と魔法陣の色は対応しており、全部で10と1の種類があります。「1」は無属性で白色の魔法陣です。そして雪=白。もうおわかりですね、「十色」は魔法の数ととも色々な感情を表しており、それがぐっちゃぐちゃに混ざり合って言い表せない白に変わり他の感情がすべて覆われてしまった、そんな複雑な気持ちを詠んだ句です。わかるか。よしんばわかったとて、こんな長ったらしい説明が必要な句は俳句としてどーなん?って気持ち。でも主要キャラシリウスのイメージが「すべてを一色に染め上げる雪」なもんで、雪が入る句は絶対に入れたかった……。改案を数年後の自分に託す。
季語は「雪景色」、晩冬、1月!

ボツ案:
この想いすべて覆ってゆき景色
ゆき景色すべて隠れる想いかな
喜怒哀楽すべて混ざってゆき景色
十色を混ぜて隠して雪景色

チラッと他人に見せたら「ゆき景色~のやついいね!」と言われてめちゃくちゃ悩みました。でも「十色」も入れたかった……分ければよかったかな……。



15.のぞくたび姿を変える薄氷や 

解説:季語は「薄氷」、初春、2月。通りがかるたびに地面に張った薄氷の形が変わっているのを見て春の訪れを感じる句です。嘘です。
拙作を推敲する際色んな方に見てもらって感想をいただき、けっこう序盤の展開を変えたんですよね。その結果キャラが消えたりネームドからモブに降格したりしました。そうやって推敲のたび少しずつ変わっていく原稿を惜しみつつも、もっとよくなってると信じる気持ちを詠みました。
まあ解釈は自由なので、嘘解説みたいに思ってもらっても大丈夫です。

ボツ案:
ごめんなさいせっかく名前を付けたのに君との思い出白紙に戻る
改稿で歪む思い出消える声より煌めくと言い聞かせながら
役割とか進行上の理由とかそんな理由で消してごめんね
読むたびに歪む思い出消える声
なぞるたび歪む思い出消える名よ

消えたキャラへの想いがデカすぎるな。



16.星の雨コンクリ上も雪解けて 

解説:季語は「雪解」、仲春、3月。「月の雨」って季語はあるけど「星の雨」はないっぽいんですよね。にこにこしながら入れました。

ボツ案:
ねえ知ってる? きみが泣くときわたしも泣いた

意味はボツ案の方がわかりやすいですね、そういうことです。彼らの涙を「星の雨」に、私のを「コンクリ」に込めました。6句目の伏線回収です()。



17.振り返るいちばん長い日雪の果て 

解説:季語は「雪の果」、仲春、3月。原稿が完成しました。
ここで拙作のタイトルをもう一度。「僕の勇者のいちばん長い日 運命の夜と最後の魔王」。



18.伸ばした手空を掴めど養花天

解説:季語は「養花天」、晩春、4月。桜が咲くころの曇り空のことで「雲が花を養うという発想から生まれた言葉」だそうです。
電撃小説大賞の締め切りは毎年4月10日。世界が終わるんじゃないかってくらいの心音を聞きながら投稿のワンクリックを押しました。本当に彼らとの旅が終わってしまった。天を仰いで手を伸ばし、もう彼らがいないことを実感しつつ、自分も少しは成長できたかとぼんやり考える。そんな句です。
「空」は自分的には「くう」だけど「そら」と読んでもよい。解釈は以下略。



19.雷鳴よきみとの思い出彼方まで 

解説:季語は「雷鳴」、三夏、5~7月。受賞してくれぇ~~~~~!!



20.書をさらし撫で取り飾る17字 

解説:季語は「書を曝す」、晩夏、7月。書を曝すってのは虫干しのことですね。「本」とか「書物」とかが入る季語、意外となかった。言わずもがな、人目に触れるようにする方の「晒す」とかかってます。
詠んだのはこの二十連句を作ってるときの気持ち。虫干しするみたいに、大事なものを丁寧に扱って。大切な宝物からさらに一番きれいなところを選び取る、そんなあたたかい気持ちでした。


♢ ♦ ♢



そんな感じで20句分の解説がやっと終わりました。長かった。なんとこの解説、5000字以上あります。まさかこんな長文になるとは。

俳句を作るのは初めてだったけど、思ったより楽しかったのでまた挑戦してみたいですね。(短歌じゃなくて俳句にしたのはそっちの方が縛りキツくて燃えるからって話、したっけ)。願わくば、画面の向こうのあなたも、数年後のわたしも、17字を探していますように。

ではでは、最後までお付き合いいただきありがとうございました!!



星涼し5000字連ねてそっと閉じ
2023.5.31

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