第5話 狂咲


 私は生きることを選んだ。


あの一件から入退院を繰り返す情緒不安定な状態が続いている。


実家と友人宅との往復という刹那的な生活。


あの男が合鍵を持っているかもしれない。

実家に隠れてみ入っているかもしれない。


そんな被害妄想が一旦始まると、

猜疑的さいぎてきな傾向が強まり、

パラノイアとしての潜伏せんぷくがやまなかった。


夜道、さまよい歩く生気の抜けた私に、

とあるサラリーマン風の男が声をかけてきた。


「キミ、大丈夫⁉ 家に帰れそう?」

「――私、帰る場所なんて、ないから……」


私は生きるためのお金が欲しかった。


母のようになりたくなかったが、

色を使うところはそっくりだ。


誰もいない部屋に私と二人きりになると、

その男はのどをうるおす間もなく、唇を埋めてきた。


そんな春の埋め方でたやすく塞げるような喪失ではない。

そのままベッドに私は押し倒されて、

手早な情欲に衣服を剥ぎ取られていく。


今日も誰かの腕の中。

心にあいた風穴をもつ、都合のいい女。


簡単には塞げないその喪失に、入り込めるすきを作っては、

誰かをそっと招き入れているのかもしれない。


今ならお母さんの気持ちが、わかる気がする……


快楽におぼれて、時の流れに身を任せる自堕落な未来。


いつかきっと、美しい春になるから……


あなたが春を求めるなら、私は何度でも狂い咲く。


母の言葉と命を宿して、今日も私は生きていく。

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春なんて、死んでしまえばいい 刹那 @hiromu524710

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