最終章 - 蒼の… -

 アオたる時任青樹は独り、ビルの屋上から街を見下ろしていた。

 夜中だった。

 夜こそ、彼の敵たる外界からの浸食者が現れる時間だった。

 世界の資源リソースを食らい顕現する奴等は、より大きい資源を占有する太陽とは相容れない。


 かつては彼にも多くの仲間が居た。

 明けの明星、最強たるアカを筆頭に、綺羅星のごとき戦士たちが戦場を駆けけ巡っていた。

 それがいかに絶望的な戦いであっても、彼らは輝いていた。

 だが、朱は敵の罠によって浸食を受け、他の戦士たちも滅ぼされるか、朱と同様に浸食され戦えぬ身となった。

 浸食された箇所を切り離す代償は初期化。世界を終わらせると宣告されたその時まで巻き戻ることだった。

 それは戦士として戦った経験、知識、戦いの過程で得た力全てを失うことでもあった。

 そうして戦士たちが消えた後、残ったのは蒼だけになった。

 戦士たちの末席とも言えぬ、戦士とも言えなかった自分が、彼らの真似事をして戦い続けている。


 最強たる朱に憧れ、彼女の得物である剣鈴を振るい、しかしあの、敵も味方も葬送する喪服のような黒い背広までは真似ることが出来ず、せいぜいが似たダークグレーのスーツを着て。

 未練がましく昼は自らも過去の姿に変え、記憶も力も失った朱を見守り。


 味方と名乗る上位存在の、糸口を見つけるという言葉に縋り戦い続けている。

 ただ独りの防壁として。防壁たる役割を果たすべく、繰返ループしの中でも記憶を引き継いで。


 蒼の記憶にある朱はもう居ない。

 彼女は喪失したのだ。巻き戻ってしまった彼女は、もう彼の知る彼女ではない。


 だがそれでも、と蒼は思う。

 それでも、彼女が、戦士たちが守ろうとしたものは、まだ残っている。


 それはもはや残骸、残滓なのかもしれない。

 所詮は虚構なのかもしれない。


 だがそれでも。

 それでも。


 蒼はビルの狭間に、染みのように湧き上がる黒い陽炎を見つけた。

 トレンチコートが翻る。

 ビルの狭間に高い鈴の音が響き、消えた。



─── 了 ───






「偽環ウロボロス」を最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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「その旅びとは謎が多い」

https://kakuyomu.jp/works/16818093074826293729/episodes/16818093075225842135

大森林を旅する青年と精霊に愛された少女の物語。その先々で起こる事件、出会いと別れ。各話毎に緩い繋がりのある連作短編集です。

読んで頂ければ幸いです。

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偽環ウロボロス 青村司 @mytad

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