『うぐいすの夜』川辺いと著

 ずっと迷っていました。ふたつめを。川辺いととの出会いは彼女が『骨を孕む』をよんでくれたこの応援コメントでした。昨年の12月29日のことです。


 一部を紹介しようと思いましたが、抜き出すと川辺いとの気持ちの一部を切り捨てるような気がしました。よって全文を紹介します。許してくれるはずです。

(空白行だけ少し詰めています。川辺いとが用いる空白行にはとても意味があることを感じ取っているので、そこは申し訳ないです)


https://kakuyomu.jp/works/16817330667761206668/episodes/16817330667761298377/comments


――2023年12月29日 17:35――川辺いとによるコメント――引用ここから――


拝読させていただきました。

感想等書くのは初めてなのでどうお伝えすべきかと考えましたが、とにかく、「とても素敵な内容でした」とお伝えする以上に言葉を見つけられませんでした。汗


私もおばあちゃんっ子だったので、二年前に祖母を病院で看取った時は、悲しい寂しいというよりも、感謝の気持ちでいっぱいだったことを思い出しました。

その後病院の駐車場で声を押し殺しながら泣きました。田舎だったし真夜中だったし、我慢せずに泣いても誰にも気づかれることはなかったのに、不思議と声が出ませんでした。


通夜も葬式も、親戚家族が集まる中、私はほとんどを祖母の寝顔を眺めて過ごしました。焼香も誰かが供えているにも関わらず、自分が点けたものが消えそうになったら一本足して火葬の時まで過ごしました。

親戚のみんなから「ありがとね」と言われました。たくさん手伝ってくれて、焼香までずっと番をしてくれて疲れたでしょう。眠たくないか。本当にお前がいて助かったよ、ありがとう、と。


火葬の時も納骨の時も、一緒に中に入りたいと思いました。そのほうが、自分が寂しくないから。

でも、冗談みたいにそんなことを考えている自分が好きでした。

祖母は私にとって、親戚家族みんなにとって、お手本のような美しい人柄を持って生涯を全うしました。

あんなふうになれたらと、私は帰宅後に縁側に座り込んで庭先の低木を見つめていました。

祖母みたいに低い木だと笑ってしまいました。


全部、この作品を読んで蘇ってきました。忘れていたわけではないですが、その時の外の暑さやあの時鳴いていた蝉の声、稲穂の凪ぐ音、葬儀場の自動ドアの開閉音……。

思い出して、美しい人になりたいと思いました。


虹乃さん、ありがとうございました。


ものすごく長文な感想になってしまいました。汗

すみません。笑


返信等していただかなくて構いませんので、テキトーに読み流してください(切望)。


まだまだ寒い気温が続きますので、お互い心身障りないよう気をつけていきましょう!


それでは。

――2023年12月29日 17:35――川辺いとによるコメント――引用おわり――


 当然のことながら、私はこのコメントを読んで、心を奪われました。一緒に棺に入りたいと考えながら、それを冗談のように考えている自分を俯瞰で笑う――この感傷が、とても、私にとって親しみのあることだったからです。


 すぐに彼女のプロフィールページに飛びました。そのとき、小説のリストには一作しか掲載がありませんでした。


『氷上よ、鳴り響け! ──綾里第一高校スピードスケート部── 』

https://kakuyomu.jp/works/16817330653154704603


 高校のスピードスケート部を題材に!? 私自身が『銀盤のフラミンゴ』でフィギュアスケートをやっている女子高校生を主人公にしたことがあったため、スケートを描くことの大変さはわかっています。銀盤のフラミンゴを書いている中で、何度も後悔しました。どうしてスケートにしてしまったのかあああ! と。でも、やはりダーリーンが選んで続けてきたフィギュアスケートは、フィギュアスケートでなければならない必然があったから、必死に頑張りました。


 競技スポーツは、ルールの改変が目まぐるしいのです。スコアなども年代によってかわったりしていますし、本当に大変でした。それでも選んでいる川辺いと、という人に、とても興味がわきました。でも長編だから読み切るのは時間がかかりそうだし、読みますとは簡単には言えない、でも伝えたい。きっと読みますと。


 初めのやりとりは、そこで留まりました。彼女のTwitterアカウントにも小説の話題はほぼなく、全力の『推し活』がそこにあるだけ。でも、とてつもない出会いがすでに起こっていたことを私は後に知ることになります。

 こあきさんのときは『黄昏』のページを開いた瞬間に私はひれ伏しましたが、川辺いとにひれ伏すことになるのはもう少し先でした。


『なきごえ』

 https://kakuyomu.jp/works/16818023212409066569


 を読みました。震災復興ソングの合唱曲「花は咲く」を彼女の世界でうたったものでした。心が動きました。

➤レビュー

https://kakuyomu.jp/works/16818023212409066569/reviews/16818023212446679232


 1月27日 その日が来ました。この日辺りに公開された新作です。後で訊きましたが本人も全力で描いたと。(限界突破を探って)


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『うぐいすの夜』 川辺いと著 4,201文字

https://kakuyomu.jp/works/16818023212424508438


──私の夜を掬いたい。

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➤レビュー


『川辺いとというクラシック』★★★ Excellent!!! 虹乃ノラン

2024年1月27日 20:13


やってくれた。


これを理解し言語化できる人がはたしてどれだけいるだろうか。


このすばらしさを伝えたい。だから私はレビューを書く。

伝えられるだろうか。川辺いとというその人を。


ほかのなにものにも喩えたくない。


「暗闇から早く逃げろ」


春を告げようとする鳥ははるかな夜を迎える。


すばらしかったです。



今日の一句:一日一回川辺いと。


https://kakuyomu.jp/works/16818023212424508438/reviews/16818023212563463067

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 今日ここに、私がこれを紹介する。――レビューを書いた日から、実にひと月以上も経過しています。

 本当に迷っていたのです。ここに載せるかどうか。理由はいろいろありました。創作者として、彼女はあまりに繊細であるがゆえに、そっとしておいた方がいいのではないか。という部分も多少懸念材料でした。


 実は、私は『うぐいすの夜』を読んですぐに、信頼できる三名の方にこれを読んでもらいました。そんなたいそうなことじゃありません。


「これすごい! これよんで! (でもちょっと不安だから)どう思うか知りたい!」


 ごめんなさい。謝ります。でも、どう思うか知りたい。それは私の感受性を上回るものがそこにあって、とてつもなく私の脳がぐらぐらしたからです。誰かに確認したかった。お墨付きがほしかった。


 驚くことに、三人が三人とも、違う反応をしました。(意訳して紹介)


 ひとりは、「良いところはあるけど構成に改善の余地がある」

 ひとりは、「え、なに書いてるかわからない!」

 ひとりは、「ぐっときました」


 誰か、というのはここでは書きませんが、いずれの方も実力もあり、私が尊敬する著者であることは間違いありません。


 それで私は寝かすことにしました。なにを、って、私の感傷をです。


 そして、今日もう一度読み直し、二作品目に載せることに決めました。(三作品目以降がたまってるんですよ! 順番に載せたかったから、そろそろ決めなきゃという思いも大きく働きました)


 いやあ、紹介っていうだけなのに、やたら長いですね。


 ようやく本論かもしれないですけど、


 川辺いとその人は、とてつもない感性を持っています。全身の血脈に至るまでありとあらゆるレセプターを備えています。産毛のひとつひとつで芸術を観賞します。いったい彼女の脳は、何をみているのだろうかと思います。時折りバグるでしょう。恐ろしいです。生きづらいでしょう。うぐいすの夜は、かなりの部分、川辺いとその人だろうと思います。彼女は強く生きる努力を惜しまずがんばっているけれど、苦しみの底を知っているでしょう。世界のテロを一身に受け続けているような、荒々しさだと思います。

 どんな離れた世界の出来事も、時代を超えて、嗚咽して立ち上がれなくなるほどの衝撃を受けてしまうような感受性の持ち主です。


 そんな彼女が書いた、うぐいすの夜の、映像が、私には見えました。乾いたぬめりと、カラカラと染める、じわり、纒わりつく響き。

 そこに、決してなくなることのない、シンパシーを見ました。


 共感をえられない人がいるであろうことは承知のうえで、これをふたつめとしました。


『うぐいすの夜』の完成度を語るのではない。「わたしの『黄昏れ』を盗んだものたち」私がそうこれを題したこと。結局ここに立ち戻りました。そしてその歪さが、わたしに紛れもない美しさを魅せつけた。きっかけが『骨を孕む』であったことが、やはり必然であったかのように……。


 私は、


 一生あなたを読み続けたい。


 一日一回、川辺いと。


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わたしの『黄昏れ』を盗んだものたち。 虹乃ノラン @nijinonoran

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