あとがき

 紅艶こうえん 〜椿売つばきめ鎌売かまめ


 いかがだったでしょうか?


 これは、主人公が二人の物語で、

「蘭契ニ光ヲ和グ 〜らんけいに光をやはらぐ〜」

 でちらっと登場していた椿売つばきめと、

「あらたまの恋 ぬばたまの夢」で登場する主人公、三虎みとら母刀自ははとじ鎌売かまめの若かりし恋の物語です。


「あらたまの恋 ぬばたまの夢」を執筆時には、書く構想はありませんでした。


「蘭契ニ光ヲ和グ」で描いた椿売は、文字数を抑えたので、もっと、こういった感情があったのに、というのを、描いてあげられませんでした。

 椿売は二人の貴公子から愛された女性で、とても美しく、まさしく咲き誇る大輪の花のような女性だったのでしょう。

 己の美しさに自覚的で、誇り高く、本気で大豪族の吾妹子あぎもこを狙って、上毛野君かみつけののきみの屋敷の女官となりました。

 両親の期待を一身に背負って。


 それは、久君美良くくみらも同じです。

 久君美良は、そこまで美貌を鼻にかける、というのではなく、己の美点、おのこを包む優しさと、男の保護欲をそそる手弱女たおやめぶりで勝負しようとしていた節がありますね。


 しかし、貴公子である意氣瀬おきせさまに本気で恋をしてしまい……。

 苦しい恋となってしまいます。


 椿売も、道ならぬ道へと堕ちてしまいます。

 いけない、とわかっているのに、意氣瀬さまから愛されているのをわかっているのに、意氣瀬さまとはまた違った魅力の広瀬さまに激しく求められ、その魅力に、抗いきれませんでした。


 道を踏み外した男と女。


 恋の炎が何もかもを焼き尽くします。


 ただね、この椿売の章がね、ギャグが差し込めませんでした事をここに謝罪します。


 ギャグ〜、ギャグが〜。


 駄目だ。ギャグ要員がいない。

 無理に入れようとすると、無駄なキャラを入れることになってしまう。

 話の大筋からそれるだけだ。

 なんかマスコットほしい。

 口が悪くてちゅんちゅんさえずる鳥とか。

 (ねっ、たけざぶろう様。)

 なんかもふもふの尻尾がついた獣人じゅうじんとか。

 (ねっ、綾森れん様。)

 無理か。(ため息)



 その嘆きを背負い、鎌売の家族はギャグに振り切れます。

 いいじゃん。もう、ギャグで。愛があるなら……。


 さて、そんなギャグな家族に愛された鎌売。

 鎌売かまめは、「あらたまの恋 ぬばたまの夢」「蘭契ニ光ヲ和グ」この二つの物語を通じて、とっても良いキャラに成長しまして……。

 登場人物一覧、つまである八十敷の紹介欄で「妻にメロメロ」と書かれている鎌売。

 鎌売はめっちゃ怖い、厳しい女性です。

 どう八十敷やそしきはメロメロなんでしょう?

 どんな出会いだったのでしょう?


 そして描いてみたら、とても魅力的な恋愛となりました。

(ん? 自画自賛。まあまあ。)


 八十敷は、ずっと鎌売が好きで好きで、いつ広瀬さまのお手つきになってもおかしくない立場で鎌売が女官として働いているのが、耐えられませんでした。

 ありがよひの約束が破綻して、爆発してしまいます。

 もっと冷静であれ?

 そうかもしれません。

 しかしここは、奈良時代。

 熱い恋愛の血潮が流れている時代です。

 恋心をつのらせ、八十敷は本当に心臓が張り裂けてしまう、という思いのなかで、

「オレは今宵、おまえを抱く。」

 と宣言をします。


 時には、男に、命を賭けて、その言葉を言ってほしい。

 私はそう、思います。


 恋愛には冷めた目線の鎌売。

 目の前で、親友二人が次々と恋愛で破滅をしていき、ショックを受けます。

 そのままだったら、恋愛に臆病な女性となっていたでしょう。

 鎌売に運命的に惚れた八十敷が、その魅力でもって、鎌売の心を開いていきます。

 そして、なんと、女官部屋でさ寝をすることに!

 しかもそれが、すっごく良かったようです。


 きっと、久君美良も、椿売も、この恋愛には積極的ではなかった、不器用感あふれる鎌売の、恋愛の成就を、お空の上から、


「まあっ。あたし達が寝ていた部屋でそういう事しちゃうの?!」

「ちょっと……。ノリノリじゃない。」


 とツッコミを入れながら、嬉しく見守っていたことでしょう。



 鎌売は、本当に幸せになりました。

 女官の世界は、女の戦いもあります。

 しかし、家に帰れば、愛するつまの腕のなかで、何もかも忘れてとろけ、深く安らかに眠るのです……。



 八十敷は、本当はワガママ毛豆止女もとつめの息子の武芸の師となるはずだったのに、ワガママ毛豆止女もとつめがヒステリーを起こして、クビにされてます。

 おかげで、宇都売うつめさまの息子の専属の武芸の師となれたんですけどね。

 なので、実は、ワガママ毛豆止女もとつめの息子より、宇都売さまの息子の方が、武芸の腕は上です。

 八十敷は良い先生でもありました。




 鎌売のサクセスストーリーをもうちょっと読みたかったな、と少しでも思ったそこのアナタ! 

「蘭契ニ光ヲ和グ」をご覧いただくと、この、「紅艶こうえん」からスッキリ時間が繋がりますよ。

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 億野麻呂おのまろ兄ちゃんのただれ……もとい、優雅な生活。

かみな鳴りそね  〜億野麻呂おのまろの優雅な生活〜」

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 鎌売の母ちゃん、父ちゃんの馴れ初め。

「龍は金弓かなゆみ持ち光輝く」

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 ここまでご覧いただき、ありがとうございました。




 ◎参考文献



 ○万葉仮名で読む万葉集   石川九楊  岩波書店


 ○古代歌謡集  日本古典文学大系  岩波書店


 ○万葉集     岩波書店


 ○日本の伝統色  和の色を愛でる会   大和書房


 ○木簡 古代からの頼り   奈良文化財研究所   岩波書店

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紅艶  〜椿売と鎌売〜 加須 千花 @moonpost18

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