時計は止まった。されどまた動き出す

本作はミステリーですので、何処までが許容されるネタバレなのかは僕自身も解り得ない所ですが、まず一つ言いたいことは「狭い舞台を十分、否、十二分に使っている」という事です。

まず主人公の心に深い影を落とし、人生の時計、成長する心の時間を止めてしまう陰惨な事件から物語は幕を開けます。親友を喪った主人公・志緒は、彼女が友人になりたかった少女が身投げを試みている現場に遭遇する。そして志緒が信頼する小児科医の男は彼女に身投げの真相について、「気になるなら調べてみたら? 」と暗に背中を押します。
 調査していく過程で新たな友人達や協力してくれる大人達と出会い、彼女の心にも徐々に変化が生じていく。この過程は、けだしミステリーのジャンルを超越していると個人的には思いました。

そして第二部解決編では志緒の過去に暗い影を落とす事件と今回の事件との関わりが紐解かれていき、一連の事件が一つに集約されていきます。事件を追う志緒と彼女を取り巻く友人連や大人達、卍巴に入り乱れ、最後にはおぞましい真相、思わぬ犯人に行き着きます。そして調査が進むと同時に志緒が自分自身と向き合う描写が顕著になっていきますが、全く違和感が無く、かつ克明であります。

しかし読後には、ビターエンドという事は無く、自分を歪めた過去の事件と向き合い新たなる未来へと踏み出していく若者達の希望の背中までもが見えてきそうな作品でした。

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