13_エピローグ

「騙してやったわ! いい気味よ。聞いた? 『胸がすく思いだ』ですって! あれが私の加工した映像とも知らずに、ほんとに馬鹿な奴」


 祐樹と一緒に、あの日の組織のコントロールルームを記録した映像を鑑賞する。所長の滑稽さはもちろんとして、私たちが自由なんだということを自覚できるから、定期的に見たくなる。


「はっはっは!! あの野郎、散々いいように使いやがって。こんな簡単な手に引っかかるなんて、小物だな」


「違いないわ。うまくいかなかったら部下に当たり散らすなんて、自分の器の小ささを喧伝するだけなのに。ほんと愚か」


 だけど、本当にぎりぎりだった。

 自爆コードは、管理者権限とは別に設定されていた。そのせいで解除は管理者コードの委譲とは比べ物にならないほどてこずった。

 コードの遠隔操作に間に合ったのは、博士のよこした別動隊が時間を作ってくれたおかげだ。

 別動隊は組織のバンを制圧して、搭載されていた通信機に私お手製のクラッキングソフトを突っ込んでくれた。

 組織との通信は秘匿性を担保するためにその通信機を介さないと行えないようになっていた。

 だが、その秘匿性が裏目に出た。

 別動隊が通信機を抑えてくれたおかげで、通信機から送られるパケットを不自然にならないくらいに遅延させることで時間稼ぎができたのだ。


 祐樹を救い出した日から3か月。その間、祐樹は酷い実験と投薬の影響で生死の淵をさまよっていた。

 しかし、博士の別動隊が確保した祐樹専任の研究者のおかげで最悪の状態は脱した。今も入院してリハビリ中だが、穏やかな毎日だ。

 別動隊が確保した他の者たちも組織のやり方には辟易としていたらしい。アッシュトゥアッシュを解除したら解放されたと喜んでいた。現在彼らは博士の監視下にある。


「今日の調子はどう?」


「ああ、ぴんぴんだ」


 祐樹は膝と肘に仕掛けられた爆弾のせいで足と腕はほとんど残っていない。

 頭に埋め込まれたコンピュータと同期して動く義肢を試験的に使っていたようだが、脳と体への負担が大きいため、今は普通の物を使っている。


「そりゃそうか。手や足が無いって言っても、別に不便そうでもないしねー」


「電脳経由で通信すれば車いすも動かせるしな。トイレが少し大変ってくらいだ」


「この年になっておむつだもんね。今日は私が代えてあげよっか」


「ぜってーやだ!!」


 祐樹とそんな他愛のないやり取りをして笑いあう。

 組織は私たちが死んだと思っているから、刺客を放たれることはない。それに、祐樹がパケットを送っていた宛先から組織の中枢部を割り出してバックドアを作ったから、あいつらの動きは駄々洩れだ。

 博士は組織を壊滅させるため作戦を練っているようだが、私たちは情報提供以上のことはしていない。

 博士も、もう危険なことはするなといってくれている。


「ねえ、祐樹」


「なんだ」


 祐樹ののほほんとした顔つきを見ていると、自然と口角が上がってくる。柔らかな時間がこそばゆい。


「私ね、今とっても幸せ!」


「そうだな。俺もだよ」


 もう何度目かも分からないやり取りに、祐樹がまたかと呆れた顔をしながらも応えてくれる。

 隣に祐樹が居て、組織に脅かされることも無い。心残りは一つだけだ。


「祐樹が普通に暮らせるようになったら、猫を飼おうね」


「はぁ。また、きなこの話か」


「またとは何よ。またとは」


 きなこちゃんがいかに可愛いかを力説すると、祐樹が相槌を打ちながら聞いてくれる。そんな、なんでもない日常の一コマを噛みしめる。


 ねえ、パパ。天国から見えてるかな。私、今とっても幸せです。祐樹と一緒にうんと長生きして、お土産話をいっぱい持っていくから、気長に待っててね。

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