吐き出せない親

家族という強い結びつきならではの不安定さがとても繊細に描かれていると思いました。端から見るとどう考えても加害行為なのに、「親だから」「育ててもらっているから」という理由で納得しようとする主人公の曖昧でありながら切実な苦しみがリアルに描かれており興味深く読ませていただきました。

去年のカクヨムコンで【「令和の私小説」部門】短編特別賞を受賞された作品です。

読んでみて、すぐに納得しました。
同作者の別作品を読んでこちらも読んだのですが、どちらも素晴らしいエッセイです。

このエッセイは家族のことについて語られています。

読んでいて、心が苦しくなる時もあります。
それは、想像をかきたてられるように書かれているから。

大変な環境だったのだろうと思います。
しかしそんな中でも前へ進むことのできた作者さんは、人間としても尊敬すべき方だと感じました。

わたしはいまだに親というものがわからない。
愛されてきたとは思う。ここに記されたような虐待は思い当たらないし、守ってもらってきたし、今もそうだと思う。
だけど、親の掌の上から逃れられなくて、若い頃はとても苦しかったことも思い出す。
それは宇宙を統べるお釈迦様の掌のようだった。
同時に自分は親にはなれないと思い子は産まない選択をした。そんなご大層な人間ではない、そう思ったからだ。

愛されてきたとしても、人間にとって親という存在はかくも大きい。重い。そしてそれが自分を否定し続ける者どもであったら、尚更だろう。その苦しみと無力感は計り知れない。

だがここに描かれた軌跡は、勇気を持ってそこから逃…続きを読む

主人公の受ける、数々の酷い仕打ち。
それに対して、決して強く立ち向かうような物語ではない。
強いのではない。それだけは、読者に知ってもらいたい。
この物語は、それでも生きているのは何故かと考えさせられる。
生きていられるのは、希望を持っているからではないように思う。
自ら命を絶つ気力すらないのかもしれない。
世の中に期待する事を諦めて、生きているのかもしれない。
自分の生まれた境遇を呪うのか受け入れるのか。
自分なら……と読みながら自問自答して欲しい。

この作品を読み「親の愛ではない」と言いきれる人は幸せだと思う。

何故なら「愛」が何かを知っているから。
何故なら「毒」が何かを知っているから。

ひどい、こんなのあり得ない、可哀相、というのは簡単だ。

澄み切った文章の中、ひりつくような感情がこめられているこの作品を一言で表すのは難しい。

愛と毒は表裏一体ということがよくわかる作品で、だからこそ読むのが怖かった。

自分も誰かに「愛」を無作為にばらまいていないか。
自分も誰かに「毒」を無作為にばらまいていないか。

そんな不安を抱きながらも、続きを読むのが止まらなかった。
魅力と筆力が、それだけある作品だから。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（547文字）

負けた。
読了してから、そう思いました。
辛い内容なのに、スルスル入ってくる文章力に。
主人公に感情移入させる技術に。
そして、小説に対する情熱に。

私も、こんな小説を書いてみたい。
そう、心から思って作品です。

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（384文字）

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（192文字）

　物心つく前から、もっとも信じられるはずの存在から浴びせられ続けた呪いの言葉たち。これがいかに人の心を縛って呪い続けるのか。
　痛々しいほどに伝わって来る物語でした。
　多くは語りません。ご自身でよく読み、心に問いかけてください。
　そして、見えてきたものを大切にしてください。私から言えるのはそれだけです。