第9話 予算とスケジュールから企画の『規模』を掴もう


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 ・ゲームの規模は、予算とスケジュールから逆算できる。

 ・予算2,000万円だと、フルプライス作品が12ヶ月後に出る。

 ・企画屋は、プロデューサー、ディレクターの『目』を養おう。

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 前回まではノベルゲーム制作における

『予算の考え方』と『スケジュールの把握』について、説明してきました。

 今回は企画の『規模=ボリューム』についてみていきます。



 ■ノベルゲーム開発の実例


 企画の規模は、『予算』と『スケジュール』から決まります。

 例えば、予算が『2,000万』だった場合……


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 予算『2,000万円』の ノベルゲームの仕様

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 ・攻略可能ヒロイン:4人

 ・シナリオテキスト容量:1.8M(70万文字前後)

  (1ヒロインあたり、400KB + 共通パート200KB)

 ・主人公以外、フルボイス

 ・CG枚数:100枚前後

  (1ヒロインあたり20枚 + SDイラスト20枚)

 

 フルプライス(¥ 8,900 )の企画になります。

 開発期間はおよそ11ヶ月、発売時期は12ヶ月後になります。


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 予算『1,000万円』の ノベルゲームの仕様

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 ・攻略可能ヒロイン:2人

 ・シナリオテキスト容量:900K(35万文字前後)

  (ヒロイン2人 + 共通パート)

 ・主人公以外、フルボイス

 ・CG枚数:50枚

  (1ヒロインあたり20枚 + SDイラスト10枚)


 ミドルプライス(¥ 5,800円 )の企画になります。

 開発期間はおよそ6ヶ月です。(発売は7ヶ月後)



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 予算『400万円』の ノベルゲームの仕様

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 ・攻略可能ヒロイン:1人

 ・シナリオテキスト容量:450K(ヒロイン1人)(17万文字前後)

 ・主人公以外、フルボイス

 ・CG枚数:25枚

  (1ヒロインあたり20枚 + SDイラスト5枚)


 ロープライス(¥ 2,980円 )の企画になるでしょう。

 開発期間はおよそ4ヶ月です。(発売は5ヶ月後)




 上記はあくまで一例なので、予算の内訳は会社によって異なります。


 ミドルプライスでも、フルプライスの予算で作ってる現場もあります。

 ロープライスの予算でフルプライスの作品を作らされていたら

 ブラック案件なので、手を引いた方が賢明でしょう(真顔)。


 1章前半の記事にて、ノベルゲーム制作の流れを解説しました。

 その中で、企画兼ライターがノベルゲーム制作に携わった場合、

 最低でも10ヶ月間、企画に従事していることがわかりました。


 1.8MB(70万文字前後)のシナリオのノベルゲームの制作に

 11ヶ月~12ヶ月かかる、という試算はここからきています。

 (実際に空下が関わった案件でも、それくらいかかった)




 ■開発スケジュールと予算のお話


 お次は人件費、お賃金、報酬のお話です。


 個々人の契約内容はさすがに開示できませんが、

 それでは『予算感』が掴めないので、

 わかりやすく時給1000円で人件費を計算していきましょう。


 平日20日 × 8時間労働 × 1000円(※)

          = 月給 160,000円


 月給 160,000円 × 10ヶ月

          =1,600,000円(160万)

 となります。



 (※) 計算しやすく時給1000円にしましたが、

     実際はもっと貰ってます。(たぶん)



 もしも開発メンバーが10人いた場合、

(おおざっぱに計算して)開発費用として1600万かかるわけです。


 ゲーム会社の多くは能力給&裁量労働制であり、

 素材を外注に依頼することも多いため、時給換算は難しいでしょうが、

 大まかな『予算感』は掴めるかと思います。




 ■企画規模から、企画内容も決まっていく


 ゲームを一本作るのにかかる費用は人件費の他にも、

 事務所の光熱費や宣伝費、DVDのプレス代、

 限定版の制作費などもかかります。アフレコの費用も馬鹿になりません。


 おや、2,000万円では足りない気がしてきましたね。

 人件費を削る(時給ではなくて、スケジュールを詰める)か

 規模を抑える必要があるようです。


 そんなわけで「本来は10ヶ月でやる作業量だが、8ヶ月でやれ!」と

 現場が無茶ぶりされるわけです(ご無体なー)。


 当然、現場から「無理ゲー」という意見が出てくるので、

「2,500万おくれ!」と、クライアント(様)に交渉します。

 そして、当然ながら交渉は決裂します(ええー)。


「だったら、ヒロインの数は維持してシナリオ容量を減らそう」

「アフレコとスクリプトを同時進行で行い、納期を繰り上げよう」

「事前にグッズを売って開発費の足しにしよう」


 といったように、企画の規模から内容が限定されていったり

 予算をやりくりしていくことになります。


 予算はプロデューサー、スケジュール調整はディレクターのお仕事ですが、

 彼らの作業を手伝ったりして『感覚』を養っておくと、

 現実的かつ中身のある企画が書けると思いますよ。




 ■商業ラインの売り上げと規模の関係


 商業作品の場合、クライアントから借りたお金は

 商品=ゲームの売り上げから返します。


 利益をそのまま渡すわけではなく、売り上げから諸経費を引いたうえで、

 ショップ、流通、ゲーム制作会社(自分たち) で分配します。


 内訳は秘密ですが、およそ4~6割が制作会社に入ってきます。

 会社から入ってきたお金でクライアントへの借金を返済し、

 残ったら次回作の資金としてプールします。


 ですので、売り上げが厳しめだと資金は底を突く……

 というかマイナスになります。

 借金が返しきれないからね。当然だね。


 では、どうするのかと言うと、イベントに出店してお金を稼いだり、

 ダウンロード販売などをして、どうにかお金を集めます。

 どうにかならないと普通に会社が潰れます(マジトーン)


 聡明な読者さんならおわかりでしょうが、

 フルプライスのPCゲームは、8,900円(税抜き)です。


 制作費が2,000万かかった場合、5割前後が会社に入ってくるとして、

 5,000本以上(以上がポイント)は売り上げないと借金は返せません。


 現状(2022年)、1万本売れればヒット作と呼ばれます。

(2000年代は10万本がヒットの目安でした)


 5,000本は、実現可能そうでなかなか難しいギリギリのラインです。

 利益をださないと会社としてはゼロ点なので、

 せめて5,000本以上は売り上げる作品を世に出したいものですね。




 ■規模を自由に設定したいなら同人もあり


「結局金かよ!」「夢がない」と

 お嘆きの方もいらっしゃるかもしれませんが、

 商業で作品を発表する以上、お金がらみの制約からは逃れられません。


「ヒットを飛ばして左うちわ。勝ったながはは!」とならない限りは、

『赤字にならない(できれば黒字に)企画を作らねばならない』

 ことを念頭に置いてください。

 なぜならアナタは、開発会社に勤める1人の会社員だからです。


 商業ゲームと同人ゲームの間に優劣はありません。

 自由に作品を創りたいなら、同人イベントでゲームを発表するのも手です。

 もちろんお金がないと食べていけないので、覚悟は決めてください。




 ■一度問題点を洗い出してみよう


 解説した内容を踏まえたうえで、

 実際に『予算』と『スケジュール』をまとめてみましょう。


 具体的な数字が出せない場合は、

 おおよで良いので必要な開発資金を計算して、発売”希望”日を書きます。


 躓きやすいのが「来年のことなんてわからない」などとほざいて(失礼)

 考えるのをやめること。(めんどくさいですしね)


 そういった場合は

「予定がわからないのは何故か?」「どうして予算が組めないのか?」

 といった問題点を洗い出して、具体的な解決策を考えましょう。



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 例)必要開発資金:150万 / 開発期間:およそ1年

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   貯金300万の内、100万を同人ゲーム開発費に使用するぞい。

   親に頭を下げて、残りの50万を工面しよう。



   対策:本業で稼いで返す。

   問題点:本業が忙しく来年の予定が立てられない(本末転倒)


   ⇒ それは何故?

   ⇒ 仕事(本業)が忙しいから。余暇が一日2時間しかねぇっす。

   ⇒ なら、そもそもゲーム開発は無理ゲーなのでは?

   ⇒ さらに対策 : 毎日1時間だけ作業時間にあてる。

             3年計画でゲームを作る。

   ⇒ 3年計画なら、親から借りずに貯金すれば足りるかも……


 などという感じで、現実的なプランを立てられます。




 ■まとめ


 ゲームの規模は、予算とスケジュールから逆算できます。

 プロジェクトの規模に見合った企画を練らないと、

 その『夢』は実現できません。


 理想と現実の狭間で苦しむのはいいですが、

 悩んでいる間にお腹も減るので、前を向いて現実と戦いましょう。


 企画の「おもしろさ」が保証されているなら、

 予算やスケジュール、導入可能な素材の数が制限を受けても、

 根っこにある「おもしろさ」は揺らぎません。自信をもってください。



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 今回の講座で企画の基礎の基礎のお話は終了。

 次回から企画作りがついに始動。

 実例を踏まえつつ、企画会議の内容について詳しくみていきます。





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