ポンコツ隠れ美少女なお嬢様の家事を手伝って毎日イチャイチャする話 ~コワメン男子の風馬くんとイモ子と呼ばれていた天城さん~
空下元
第1幕 闇バイトはじめました
第1話 風馬颯人の憂鬱な月曜日
駅前にそびえ立つ高層マンションの最上階には、ぐうたらポンコツなお嬢様が住んでいる。
「ふわぁぁぁ……。おはようごじゃいまふ……」
「おはよう
エプロンを着て朝食の準備をしていた俺は、家主の天城さんがリビングに顔を出したところで挨拶を交わす。
天城さんは温泉に入っているカピパラのような、ゆるふわな表情で笑みを返してくれた。
「えへへ。おはようございます。
(天城さんは寝起きも可愛い……)
化粧をせずとも素顔が可愛くて、受け答えも子供っぽくて見ているだけで癒やされる。それはいいのだが……。
「まずは顔を洗ってきたら? それと”下”を履くのも忘れずに」
「下……?」
俺が顔を背けながらそう言うと、天城さんは自分の寝間着――Tシャツ一枚に下着だけという大胆な格好にようやく気がついた。
「もっ、申し訳ありません! 急いで着替えてきますっ」
天城さんは一瞬で顔を真っ赤に爆発させながら、
慌てて逃げ帰ったためTシャツがひらりと舞って、綺麗な太ももとピンク色の下着がチラリと見えていた。
「はぁ……。やれやれだ……」
俺はため息をつきながら、天城さんの分の牛乳をコップに注ぐ。
口から漏れるため息は、天城さんへの呆れではなくて心労からくるものだった。
俺がどうしてお金持ちのお嬢様のお世話役になったのか。
それは3日前に渡された、あの手紙が原因だった……。
◇◇◇
ゴールデンウィーク明けの月曜日は、雲ひとつない晴天に恵まれた。
新入生を優しく出迎えた桜並木は、今はもう瑞々しい新緑の葉っぱに衣を替えている。
俺が『私立
「はぁ……。またバイトの面接落ちちまった……」
早朝の校門前。爽やかな朝の空気とは対照的に、俺は箒片手にため息をつく。
型落ちの激安スマホの画面には、
『――
厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが
今回は採用を見送らせて頂くこととなりました――』
という定型文が並んでいた。
届いたのはバイトの不採用通知。いわゆる”お祈りメール”である。
ウチの家は貧乏だ。だからバイトをして生活費の足しにしようと考えていた。
連休前にバイト先を決めたかったが、これで8戦8敗。見事に負け越した。
面接に落ちた理由は自分でもわかっている。その理由は――。
「あの……、風馬くん。アルバイトお探しなんですか……?」
掃除の手を止めてスマホを睨んでいると、同じクラスの
天城さんは、淡い金色の長髪を大きな三つ編みにして後ろに流していた。
ウチの学校の制服はブレザーなのだが、天城さんは他の女子生徒みたいに着崩したりしていない。
スカート丈も校則通りの膝下2センチをキープしていた。靴下は当然、白のハイソックスだ。
インドア派なのか、肌は真っ白で日焼けの跡も見られない。
全体的に体の線が細く、触れたら壊れそうな儚さを感じさせる。
天城さんは見た目通りの大人しくて真面目な女の子で、クラスではあまり目立たないが……。
(やっぱり可愛いんだよな……)
天城さんは隠れ美少女だった。
モデルのような整った目鼻立ちに、透明感のある深海のような蒼い瞳をしている。
コンパクトでスレンダーな体型にミスマッチな、ボリュームのある胸元も魅力的だ。
けれど、いつも自信なさげに俯いているため、天城さんの可愛さに誰も気づかない。俺だって美化委員として傍にいなかったら、彼女の秘められた魅力に気づかなかっただろう。
「どうかしましたか。わたしの顔に何か……?」
「あん?」
「いえっ! なんでもありませんっ。お気に障ったのなら謝りますっ」
俺が乱暴に言葉を返すと、天城さんは慌てたように両手を左右に振った。
綺麗な顔が蒼白に染まり、ヤ○ザを前にしたかのようにガタガタと肩を震わせている。
「あっ、いや。別に脅かしたわけじゃなくて……」
弁解しようとしたが上手い言葉が浮かばず、俺の声は尻つぼみになる。
(またやっちまった……)
バイトの面接に落ちた理由がこれだ。
俺は生まれつき目つきが鋭く、高身長でガタイもいいので周りに威圧感を与える。
口数も少ないので、いつも怒っているように見えるらしい。
この”コワメン”のせいで、入学当初からあらぬ誤解を受けている。
地元で一番の不良だとか。人を殺して少年院に入っていたとか……。
バイトの面接でも、自前のコワメンと口下手の最凶コンボが炸裂。
担当者が震えながら「お引き取りください」と菓子折を出してきたことすらある。
小学校、中学校でも浮きまくり、高校に入学した後も友達ができなかった。
ついたあだ名が『だいだらぼっち』。
巨人の妖怪と、ひとりぼっちをかけたギャグだった。
(天城さんも誤解してるんだろうな……)
俺は善良な一般市民だ。今年で16になる健康な一般男子だ。
可愛い女の子と一緒の時間を過ごしていたら、異性として意識もするわけで。
(けれど、この恋が実ることはない……)
恋と呼ぶのもおこがましい。こんなのモテない男の妄想だ。
同じ委員会に所属しているだけで、ろくに話したこともない相手と恋に落ちるなんて……。
「あの……これ…………」
俺が一人で落ち込んでいると、天城さんは制服のポケットから白い封筒を取り出した。頬を真っ赤に染めながら、両手で封筒を差し出してくる。
「お時間があるときに読んでください。それでは……っ!」
「え? あっ、ちょっと……!?」
天城さんは封筒を俺に渡すと、
一人残された俺は渡された封筒――手紙をまじまじと見つめる。
「マジでマジか……? これって……」
女の子が顔を真っ赤に染めながら渡す手紙と言ったら、答えはひとつだ。
「ラブレターだ……!」
はははっ! 見たか!
同じ時間を過ごしているだけで芽生える恋。
そういうのもあるんだよ、世の中には!
――――なんて思っていた時期が俺にもありました。
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