第二十九話 裏の顔

 僕とペガメントは、麻田あさださんとともに、車で現場へと向かう。車の中は、運転している人を除けば、僕とペガメント。そして、麻田あさださんだ。しかし、彼のバディは


 ペガメントが口を開く。


「なあ、この箱なんだ?でけぇけど、何か武器でも入ってんのか?」

「ああ、僕のバディだよ」

「…は?これが?」


 ペガメントはぽかんとしている。でも、それも仕方ない。僕だって、この箱が亜人には、とてもじゃないけど見えない。もしかして、?凶暴なのがバディってのは、案外当たってたのかも…。


「こら。『これ』なんて言わないでほしいな。僕のバディなんだよ?それに、そんな言い方はないよ」

「女ぁ?変な奴だな」


 どうやら、箱の中に居るというのは当たっているようだ。


「それで…、この箱の中…、はどうして箱の中に?」

「……」


 麻田あさださんは、少し黙ってしまうが、すぐに口を開き——


「恥ずかしがりやでね…」


 そうつぶやいた。ほんの数秒のことだったが、その間が、妙に引っ掛かった。


 僕が、考えを巡らせていると、車が停車する。


「どうやら、着いたみたいだね。」


 彼は、そう言うと、箱を優しく持ち上げて、外へ運ぶ。


「ほら、佳月かげつ。行くよ?」

「うん………」


 彼は、箱の中の【カゲツ】に声をかける。すると、中からはちゃんと返事が返ってきた。箱のサイズからは、想像がつかないような可愛らしい声だ。


 僕たちが外へ出ると、一人の亜人の姿が目に入った。


「おっ!やっと来たな!」

「やあ。随分とおまたせしたみたいだね」

「そんなのは良いからよぉ!さっさとやろうぜ‼ここへ来たってことは、【D.M.S】の連中なんだろ?」

「いかにも、僕が本日、君の相手をする者だ」


 麻田あさださんは、デバイスを取り出すと、どこかへ連絡を始めた。


「亜人の姿を確認、これより戦闘へ移行する。は済んでるかな?…、そう、終わってる…。ありがとう」


 彼は、デバイスをしまう。


 ——人払ひとばらい?なんで、そんなことするんだ?


「おーい!何こそこそしてんだよ!さっさとしろよ、このがよぉ!」

「……、何…?」


 麻田あさださんの体が、ピクリとする。


「なるほど、そんなに

「ああ…、頼むぜ…。暴れたくて仕方ねぇぜ」

「言われなくても」


 麻田あさださんは、ブレスを取り出し、それを両腕に装着する。そして、腕を前に突き出し、クロスさせる。


「クソがよ………」


 彼が、何かつぶやいたように聞こえたが、良く聞こえなかった。


 そのまま、腕をクロスさせたまま胸の前へと運ぶ。


「【ダストランス】…!」


 そう唱えると、両腕のブレスが光り輝き、そこから、溢れた光が彼の全身を包み込む。


佳月かげつ‼」


 彼の姿は、『美しい』の一言に尽きる姿へと変わる。白銀のボディ、そして、それを流れる銀色のライン。まるで、芸術品だ。しかし、そんなことを考えていられるのは、。彼のバディであるという、箱から、なにやら黒いヘドロのようなものが溢れ、麻田あさださんの元へと伸びていく。そして、彼に目いっぱい近づいたかと思うと、飛び掛かる。


CROSS UPクロスアップ!!』


 そんな機会音声が聴こえたかと思うと、ヘドロは、麻田あさださんの全身を包み込む。


「【アグリム】……。お前をごみクズにしてやるぜぇ‼‼‼」


 【アグリム】…、それが彼のあの姿の名前らしい。さっきまでの姿とは正反対で、『みにくい』の一言に尽きる。それに…、今までと雰囲気が


「いくぞオラぁ!」

「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあ‼‼」


 亜人が叫ぶと、負けじと彼も叫び返す。これじゃあ、どっちが悪い奴なのかわからないや。叫び終わると、彼らは、互いに走り寄っていく。


「おりゃあ‼」


 亜人の先攻せんこう。拳を斜め下から上方向へと振り上げる。それは、アグリムの…、恐らく頬のあたりへ命中する。あの姿…、体のパーツの境界が全く分からない…。全身がヘドロで覆われていて、もはや生物かもあやしいフォルムをしている。


ってえな‼」


 攻撃を喰らった、アグリムはキレ気味に拳を振りかえす。しかし、それは顔面に命中する寸前で止まったかと思うと、その首根っこを掴む。


「…、やぁっぱりやめたぁぁぁ‼こっちにするぜぇぇぇぇ‼」


 そのまま、その首を自身へ引き寄せ、顔面へ顔面を近づける。そして、その首を力いっぱい握る。


「ぐ…が…」


 亜人は、苦しがってもがいている。何度も、拳を振り、蹴りを入れたりしているが、アグリムはまるで効いていないのか、体の表面からヘドロが飛び散るだけである。しばらく抵抗していたが、たまらず呼吸をしようと大口を開ける。それを待っていたかのように、アグリムも大口を開ける。


「ぐげえええええええ‼‼」

「もが…⁉」


 アグリムは、そのまま自身の口からヘドロを吐き出し、亜人の口へと流し込んでいく。


「ほぉぉぉら…、しっかり味わえよぉぉ…?さんよぉ…⁉」


 彼は、亜人の口を閉じさせて、強引に咀嚼そしゃくさせるような動きをさせる。そうして、しばらくやっていたかと思うと、ぴたりと動きが止まる。


「なぁんか……、飽きちまったなぁ……」


 そうつぶやくと、亜人の口の中に両手の指を突っ込む。そして、その口を強引に開く。


「このまま続けると…、どうなるのかなぁぁぁぁぁ⁇⁇」

「……!ん~‼んーー⁉」


 アグリムの表情は、よくわからないが、とても下卑げびた笑みを浮かべているのは想像にかたくない。亜人は、この後自分に起こるであろうことを考え、その顔を恐怖へと染める。しかし、アグリムはそんなことは、お構いなしとばかりに——


「泣いたってやめねぇよお‼‼」


 引き裂いた。


「ああああああっっっひゃひゃひゃひゃぁぁぁぁぁぁ‼‼」


 辺り一面に、亜人の血液とも、さっき流し込まれたヘドロともとれるものがたくさん噴き出す。


「クズがよ……」


 そう吐き捨て、亜人の体をその辺に放り投げる。


 ——なるほど…、ねぇ…。


 これは確かに、誰にも見られてはいけないだろう。もし、一般の目に触れるようなことがあれば、D.M.Sの顔としての、彼のイメージは下がる。それは避けなくてはならない。それにしても、これがD.M.Sの顔だって言うなら…、さしずめ、普段が『』で、こっちが『』ってことか…。


 面白くなってきた‼

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共存 石井将也 @incineroar_mania

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