最終話:宇宙の儚い二つの星。この空でつながっている。

8月中旬。

マーちゃんは2学期が始まる前に上京した。

龍馬空港へ行く地元の駅まで石川翔と沢田唯人と一緒に見送りに行った。

この二人とはこれからも長い付き合いになるだろう。

マーちゃんが、恥ずかしいから空港までは勘弁してと言ったのでここで別れを済ませた。

澄ちゃんは空港まで付いて行った。

マーちゃんは事務所に携帯を買ってもらった。

ネット社会の仲間入りだ。

高知と東京が近くなった。

石川翔と沢田唯人は

「東京に着いたらメールして」

と軽く笑顔で見送った。

マーちゃんも私たちに軽く笑顔を渡して呆気あっけなく去って行った。

みんなは私とマーちゃんがキスしたことなんか知らない。

私も言うつもりはない。

マーちゃんも、有名になってもインタビューなんかで決して公表しないと言った。

秘密で謎だから美しい。

電車が行き去ったあと、私の心は何だか急にエネルギーで満ちあふれてきた。

そして、以前よりもまして受験勉強を加速させた。

そして、県内有数の進学校へ合格した。浅野多久美も一緒だ。

「またアンタとか」

とやれやれと言いやがる。

でも、浅野多久美と戦っていたころの私と今の私とは明らかに違う。


私の義務教育が終わった。次は退学がある高校である。

卒業式が終わって校門を出たとき

「ああ、少しは社会というものに出たのかな」

というような気がした。

マーちゃんが行ってる社会とは比べ物にならないくらい小さい。

でも、マーちゃんはそんなこと馬鹿にしない。

電話で私の卒業を「おめでとう」と喜んでくれた。

マーちゃんはちゃんとした結果を出すまでは高知には帰ってこないと言う。

頑固で古風なマーちゃんらしい。

私もいい大学入って、いい仕事見付けて母に楽させてあげなきゃ。

母は

「何としてでも大学までは行かせてやる」

と言ってくれている。

その苦労に私もなんとか応えようと思う。

母と娘、二人しかいない。

これからも寄り添い合って生きていきたいと思う。


半年後、マーちゃんから小包が届いた。

神奈川の信用金庫のCMの端役はやくに決まったらしい。

私は石川翔と沢田唯人を呼んでDVDを観た。

15秒のCMに主役の後ろで踊っていた。

関東ローカルのCMらしい。

石川翔と沢田唯人はワーワー喜んでいたけど、私は何だか泣けてきた。

自分の高校合格のように、いや、それ以上に嬉しかった。

この端役だけでも500人のオーディションが行われたらしい。

マーちゃんは勝ち抜いたのだ。

ちょっとだけどマーちゃんは結果を残した。


 マーちゃんはやった。

 彼なりに一歩を踏み出した。

 マーちゃん、やった。

 一歩前進したよ!。

 私、嬉しいよ!。

 マーちゃん、きっと喜んでるよね。

 東京まで続くこの高知の空を見て私はその笑顔を思う。


 時岡将義、16歳。俳優。高知県出身。

 私の幼馴染みで初恋の人。

 まだ、高知には帰ってこない。


(完)

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純情やり直し幼馴染み@勃っちゃった、濡れちゃった、15歳少年少女の恋 武田優菜 @deadpan

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