最終章 ブランク埋まった。二人でやれること全力でやった。

第27話:不器用愛。勃っちゃった、濡れちゃった!

その夜、私は家に帰って再び以前のペースで勉強を始めた。

遅れた分の取り戻しである。

勉強ははかどった。

でも、何か引っ掛かるよね。

マーちゃん……。

やっぱりあのお金は重荷おもにだったのかなあ……。

余計なことしちゃったかなあ……。

夕飯を作って食べて、残業で帰ってくる母の分も作っておいて、そしてまた勉強した。

でも、勉強しながら、

やっぱり男の子にとって女の子のプレゼントなんて取るに足らないものなのかなあ……、なんてしつこく昼間の光景が頭の中をぐるぐる回って……なんか頭の中がもやもや晴れない……。

そんなハッキリしない夜を過ごしていると突然電話が鳴った。

「今すぐ会える?」

マーちゃんだった。

9時前……。

クリーニング工場の隣りの空き地で待ってるからすぐに来てとだけ言って電話は切れた。

電話越しにマーちゃんはハアハア息を切らせているようだった。

私は「ちょっと出てくる。すぐ帰る」と母に書き置きをして猛ダッシュで空き地へ向かった。

何だか良いとも悪いとも言えない複雑でやたら前向きな胸騒ぎがしていた。


9時過ぎ、人気ひとけのない空き地へ到着するとマーちゃんはもうすでにソワソワして私を待っていた。

30メートルしたところで早々はやばやと私を見付け

「直ちゃんッ!」

といつもの冷静さを忘れて、大声で私の名前を切なく叫んだ。

私はあんまりマーちゃんが冷静さを失っているようなので、

とにかく受け身に立とう、聞き役に徹しようと、

優しく丁寧にマーちゃんに対面した。

「どうしたの?」

マーちゃんはポケットから2万5千円を出して、しぼり出すように私を見つめ声を上げた。

「ありがとうッ、直ちゃんッ。ホントにありがとうッ」

改まっての昼間のお礼だったのである。

「なんだ」

私は安心して笑顔を渡した。

「ごめんね、2階に上がったりして、オフクロ居たから俺パニックになっちゃって。ホントは涙が出そうで、ちゃんと『ありがとう』って言いたくて、それで、もう、たまらなくなって、それで、2階に逃げた」

「そっか、それで今……。わざわざありがとう」

「直ちゃん好きだ!」

マーちゃんが急に私の腕を力いっぱいグイっと引っ張って、私を胸に押し込んだ。

そして、私の身体からだにぎりつぶすように抱きしめて

「好き!。めちゃくちゃ好き!。めちゃくちゃ大好き!」

私もたまらなくなって訳も分からず夢中でマーちゃんをおもいっきり抱きしめた。

「私も好き!。マーちゃん好き!」

「直ちゃん!」

「マーちゃん!」

「ごめんね、なんか、いつももらってばかりで……」

「いいの。私が勝手にしてるの」

「ずるいよそんなの」

「いいのホントに」

「直ちゃん、俺もあげていい?」

「何を?」

「直ちゃん、俺とキスして?」

「キス……?」

「俺、たぶん、仕事でファーストキスする。映画かテレビかCMか分かんないけど、たぶん仕事ですると思う……」

「うん……」

「俺、直ちゃんとファーストキスしたい」

「わ、私でいいの?」

「直ちゃんじゃなきゃダメだ!」

「マーちゃん……」

「俺のこと好き?」

「うん」

「じゃあ、俺に唇ぜんぶ預けて」

「ど、どうするの……」

「俺のことだけ考えて」

「分かった」

「直ちゃん」

「うん……」

「直ちゃん……好き……」

マーちゃんが目をつぶりそっと唇を差し出した。

私はマーちゃんが好きだってことだけを必死に考えてマーちゃんの唇に自分の唇をしっかりと重ねた。

そしてさらにマーちゃんの身体を抱きしめた。

 ………………。

マーちゃんの唇はぷるんぷるんと柔らかくて熱くてはち切れんばかりに膨張ぼうちょうしていた。

マーちゃんの優しい唇……。

私は不器用なりにマーちゃんの唇を自分の唇でせいいっぱいいとおしんだ。

マーちゃんガッシリとして熱い……。私も熱い……。

私とマーちゃんの身体は瞬間接着剤でくっつけたようにピッチリと一緒になってさらにあらゆる隙間を埋めようとしてお互いを締め合おうとする。

マーちゃんの心臓のバクバクが私の心臓のバクバクで感じ取れる。

マーちゃんも私と一緒だ……。

私は、何だかマーちゃんが私の中へすーっと入って同化してくるような感覚に襲われた。

すると、今までハッキリしなかったけど、マーちゃんも実は私のことを愛してくれていたんだとハッキリ分かって、嬉しくて泣きそうになった。

私たちの身体は興奮して押さえられなくなってそのままキスから強い強い抱擁へと移行した。

私は力の限りマーちゃんを抱きしめた。マーちゃんも私をしぼるように抱きしめた。

「直ちゃん……」

「マーちゃん……」

私たちはずっと抱き合った。

そして、もうこれ以上こわせないというほど抱きしめ合いお互いを吸収した。

そしてそっと身体を離してたたずんだ。

その瞬間、私の腰骨に何か当たったのか、マーちゃんは下を向いた。私もつられて下を見た。

「ご、ごめん……」

マーちゃんは勃起していて、ズボンの股間はパンパンにふくれ上がっていた。

「私も濡れちゃったの」

私も恥ずかしそうに笑った。

私とマーちゃんはただじっと二人の熱くなった股間を見つめていた。

恥ずかしくはなかった。

お互いを力いっぱい愛した結果だし、おさえようのないものだと興奮していた。

そして私の興奮はさらにエスカレートした。

「マーちゃん……私……いいよ……」

瞬間、マーちゃんが止まった。

すべての行動を止めた。

私の頭の隅の隅のどこかにこの展開は予想されていて、私は、その展開に入る動作を見た瞬間、冷静さを取り戻した。

マーちゃんが冷静に言葉を渡す。

「ありがとう。でも、やめよう。嬉しいけど、もう、これ以上いくと、俺はもう、おかしくなってまともに東京へ行けなくなる。だからやめよう」

「ごめんなさい……」

私は暴走してしまった自分を恥じるように謝った。

「たぶん直ちゃんも不幸になる……たぶんみんな不幸になる……」

「うん……」

「今はみんなのこと考えよう。オフクロにも生活させてもらってるし、おばさんにもすごく世話になってるし、それ以外にもいろいろな人に……。だからその人たちのためにも俺はどうしても東京へ行きたい。仕事に集中したい。直ちゃんにも安心して受験勉強してもらいたい。だからここまで。それでいいよね?」

「うんッ」

「ごめんね……いくじなしで……」

「ううん、全然、あのねマーちゃん」

「うん」

「やっぱりマーちゃん大好き」

「俺も直ちゃんが好き」

「もう一回抱きしめ合おう?。おもいっきり。忘れないように」

「うん」

私たちはぎゅうぎゅうお互いを求め合った。

「マーちゃん好き!」

「直ちゃん好き!」

「マーちゃん大好き!」

「直ちゃん大好き!」

「ずっとこの瞬間が続けばいいね」

「続くよ。俺、ずっと忘れないもん!」

私たちはいつまでもいつまでもこの瞬間を永遠に封じ込めるように抱きしめ合った……。

私は、本当にマーちゃんという男の子に出会えて良かったと思った。

この宇宙の片隅で本当にこんな素敵な男の子と巡り合えた奇跡に感謝した。

そして、私は本当に人を愛せたんだと心の底から実感した。

私は、この先も、このマーちゃんとの夜を大切にして生きていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る