タウンタウンのゴキの使いやあらへんで!!

ゲーム→ https://kakuyomu.jp/works/1177354054934585268/episodes/1177354055131078618

対戦相手→ https://kakuyomu.jp/works/1177354055394300625/episodes/1177354055404424163



 にらめっこ。

 笑うと負けよあっぷっぷ、て奴だ。そんな子供騙しの競技を内心鼻で笑いながらも、決して油断ならない魔の臭いを鋭敏に感じ取っていた。


(ふむ、この異様な力場で素直に笑える感性が信じられんな)


 言われるがままバスに乗り込んだは、ツアーコンダクターに説明を受けている最中だった。そいつも魔性の気配を隠せていないが、それ以上にこちらに迫る魔の気配に身構える。


(速いな⋯⋯⋯⋯)


 そう感じ、一つの可能性に気付いた。速度はこのバスの倍に匹敵する。単純に同じバスがすれ違おうとしているのだ。そして、対戦相手は同じようにルール説明を受けているはずだ。

 時間だ。止まったバスから静かに降り立つ。バスを降りた瞬間が正式なスタートだ。身も心も引き締める。


「やはり、か」


 ステップを降り立った直後。


「じゅびろwwwじゅびろwwwおっぴろげええwwwwwwwww」


 青いワンピースのゾンビじみた女が、鼻から噴水を噴き上げながらブリッジで突進してきた。額には大きく『肉』と描かれ、水流に流されながらド派手に滑ってくる。その口からは皮が剥かれたみかんが見え隠れ、よく見るとオレンジ色の鏡餅だった。

 特殊メイクだろうエキストラに、苦笑を隠すのが一苦労だ。失笑を抑えれきれない惨事を紳士の精神で華麗にスルー。

 だが。


「おげらぶおぎゃ!!?」


 高速スピンするバスに派手に轢き飛ばされた。五体をバラバラに吹き飛ばしながらゾンビ女が五臓六腑を空中散布して大回転。愉快な水音を上げて地面にぶち撒けられる。


「逝ってー⋯⋯間違えた、痛ってー⋯⋯話違うじゃん。危険がないから引き受けたのにさあ」


 当たり前のように完全復活して唾を吐き捨てる一般バイトゾンビを無心で見届け、大惨事のバスに目を向ける。爆発炎上。見て見ぬふりができるレベルではなかった。

 と、悲劇的なバスから颯爽と飛び降りる少女が。


「いやっっほう! スリリングなアトラクション!」


 ピエロ装束の少女が飛び跳ねる。彼女が暴れた結果なのは一目瞭然だった。スタート地点はお互い違う場所だったはずだが、バスが暴走したことで偶然同じ場所に居合わせたということか。


「君。何をしているんだ?」

「んー! ハンドルが何回転するのか試してみた!」


 紳士的に対応したのは、彼女が少女だったからに他ならない。子供に優しい性分だった。だが、捻り切られたハンドルを見るに、決定的な一線を越える実感があった。

 感性が拒絶する。きっと、分かり合えることは生涯有り得ないだろう。それでも、何というか、どことない親近感が精神を蝕む。

 そんなピエロ女がついにこちらに気付いた。


「うわーい! ワンちゃんだ! かあいい! ふさふさ! ワンちゃんだあ!!」


 めっさ懐かれた。

 そう――彼は大型の芝犬の姿だった。都市伝説。人の口伝が認知と情念の集積を経て至った存在。ある意味ではネガらと同じく情念の怪物と称すべき存在か。


「ワンちゃん! ワンちゃん! お手! おすわり! ちんちん! ほらちんちん! キャハハハハ!!」


 無邪気に首っ丈に抱きついてくる少女を薙ぎ払ったりはしなかった。若干不機嫌になりながらも優しく宥めようとする。

 しかし。






――――デデーン!


――――プロローグ、アウト!






 人面犬の都市伝説、カナ。

 彼はこの結果をなんとなく予見していた。道化の最期なんてそんなものだ。笑い転げて破滅する。ルール説明にあった、奇病『ジュビロピエロ病』の第二段階だ。呼吸困難に暴れ転げるピエロのなんと滑稽なことか。


(だが、少し可哀想なのかもしれんな)


 そう感じたのは、やはり子供に優しい性分故か。肉体を巨大な凱旋門に変貌させつつピエロ少女が中途半端に悶えている。結局少女の姿のまま泡を吹き始めた。


「キャハ、ハハハ! ヤバい!」


――――デデーン!

――――プロローグ、アウト!


 奇病だけでは不十分と判断されたか、謎の黒装束が舞台袖から飛び出した。燃える闘魂炎熱バットを振りかぶる。思いっきり振り抜いた。

 スパコーーン!!

 といい音がする。ケツを押さえて悶絶するプロローグには不憫さしか感じない。口から泡を吹きながら、尻を押さえて悶絶するピエロ少女。もう、なんというか、道化とかそんなもんじゃなかった。


「レディぃぃぃぃいスエンドジェええんトルメンッッ!!」


 テンションがやたら高い司会が両腕を広げる。四つん這いで咽せながら笑い転げるプロローグをどこか冷ややかに見下ろしながら一言。


「絶対に笑ってはいけない武家屋敷百二十分、はっじまっるよ〜〜!!」

(このまま始めるのか⋯⋯)


「はじ! はじはははははじまっ、ちゃう! キャハハハハ!!」

――――デデーン!

――――プロローグ、アウト!


 カナは嘆息する。呼吸困難で生まれたての仔馬のような悲鳴を上げるピエロ少女を見ながら。


(本当に、何を始める気なのだ⋯⋯⋯⋯)


 尤もな疑問を抱きながら。

 既に対戦相手が脱落したゲーム。地獄の百二十分が幕を上げる。

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