このたび、カクヨム公式自主企画「百合小説」の審査員を務めさせていただいた、みかみてれんです。

総評としましては……いやー! どのお話もめっちゃ面白かった!
今回カクヨムさんが掲げた『百合という物語の無限の可能性』の言葉通り、本当にいろんな種類の百合がありました。明るい百合、暗い百合、人が死ぬ百合、ただ幸せな百合。どれも面白くて、これはきっとたくさんの方々が「自分の好きな百合はこれだ!」と思って参加してくださった、いっぱいの好きの結晶なんだろうな……と思うと、ますます笑顔になってしまいますね。わたしも百合好きだから!

普段百合を書いていらっしゃる方も、今回の企画があって初めて百合を書いたよーという方も『百合を書くのってなんか楽しいな。自分に合ってるかも』と思ってくださる人がひとりでもいましたら、この企画の意義はじゅうぶんすぎるほどにあったと思います。

これからも皆さん、ぜひぜひ自分だけの『好き』の気持ちを追求してもらえたら、幸いです。みかみてれんでした!

ピックアップ

学園ラブコメ百合の主人公が復讐鬼なんて、面白いに決まってるじゃん!

  • ★★★ Excellent!!!

文字数制限のある短編作品の主人公は、能動的であることが有利に働く傾向にある。というのは、どうしたって文字数を切り詰めなければならない短編において、様々な導入をかっ飛ばすことができるからだ。

では本作はどうだろう。もう、行動力の塊である。
普通の人間がA→B→Cと、手順を踏むのに対して、この主人公はA→X→Eと飛躍的な発想でお話をガンガン動かしていく。Axe。つまり冗長な展開に斧をたたき込むような所業だ。

ただ突飛なことをしているわけではないのが、いちばんのポイントだ。その上で『復讐』という誰にでも共感できるテーマを軸に据えているからこそ、この作品は振り落とされることのないジェットコースターのようにじゅうぶんすぎるエンターテイメント性を担保している。地の文がずっと面白いのもすごい。短編という狭い世界を縦横無尽に暴れ回ってくれ鈴香、と思わずペンライトを振りたくなってくる。ハッピーバースデー、鈴香!

己のファーストキスすらも『必要経費』と言い放つこの女の生き様を、ぜひぜひみんなにも読んでもらいたい。


(カクヨム公式自主企画「百合小説」/文=みかみてれん)

今まで読んだ百合史上、いちばん最悪な告白だよ!!

  • ★★★ Excellent!!!

最も面白い短編の形のひとつは、出オチだ。さらに理想の構成の話をするなら、出オチというロケットスタートをキメた後に、その勢いが落ちないままラストまで走り切ることだろう。ただそのためには、単なる出オチに留まらず、二段、三段目のロケットを次々と点火させなければならない。

本作は、また違った解決案を採用している。ミッドポイントで、話の方向性を少し変えるのだ。要するに読者を飽きさせないための工夫があればいいという話なので、これは見事に成功している。そしてそのちょっとした味変が、本作に甘くて苦い青春ジュヴナイルの爽やかな読後感を加えている。よき!

メインを張るふたりの登場人物も、魅力的だ。ギャルとお嬢様の百合というのはド定番だけれど、掛け合いのワードチョイスが振り切れているから、お互いがお互いを引き立てている。会話シーンがそのままキャラの理解度を深める構造になっていて、もっともっとふたりのシーンが読みたくなる。

このふたりはきっと、付き合った後もいろいろ大変だろうな……と自然に思わされる時点で、すっかり虜になってしまっている。


(カクヨム公式自主企画「百合小説」/文=みかみてれん)

読んでいる間、ずっと多幸感に包まれるお話です。

  • ★★★ Excellent!!!

文字数制限のある短編において、展開の圧縮は大事なテクニックだ。なんせいつもの調子で話を書いていたら、本当に書きたいシーンに到達する前に紙幅が尽きてしまう。誰も幸せにならない……。

その点、本作のセットアップの速度は見事。必要な手順を踏んで、主人公に好感を抱かせるというお膳立てを済ませたら、あとはずっとかわいいこと!!! という筋運びが徹底されている。読者の読みたいところを、しっかりたっぷりと描いてもらえている。嬉しい!

短編作品というのは、オチの鋭さや読後感の切れ味が重視されるジャンルだが、それと同じぐらい、過程を面白く書く、読んでいる間の多幸感を担保する、というのは、大事な要素である。なぜなら人は皆、幸せになりたいと思って生きているのだから……。

ちなみに寧々ちゃんの一人称も、ずっとかわいい。こんなのかわいいを作り出す職人芸だよ……!


(カクヨム公式自主企画「百合小説」/文=みかみてれん)

2080年でも、少女たちの恋はここに瞬いている。

  • ★★★ Excellent!!!

短編を書く上で『テーマ』というのは便利なガイドだ。それは人物画を描く際のアタリにも似ている。すべてのシーンがテーマに沿った描かれ方をしていれば、物語は非常に読みやすいものとなる。たとえ突飛で荒々しい展開であっても、それがテーマに沿っていれば浮いた印象を与えることは少ない。

本作は、地球から父の待つ星へ向かう逃避行モノである。それでいて、骨子の通ったSFモノである。このお話を丁寧にやれば、同じ展開で少なくとも4万字はかかるだろう。(個人の意見です!)
それなのに一本の短編として高い完成度を誇っているのは、徐々に東京から遠ざかってゆくというその表現が、バッチリ行間を埋める役割を果たしているからだ。

SFは特に、定めたルールの中で描ける自由度が高い物語である。そこを、読者の気持ちを途切れさせない仕組みとして、うまくテーマを活かしているのが、素晴らしかった。
ここではないどこかへと向かった距離。そしてかつて親しかった幼馴染みと縮まってゆく距離。このふたつの対比構造を思いついた時点でもう勝ちじゃない? と思えるようなお話でした。

みんなにも読んでほしい!


(カクヨム公式自主企画「百合小説」/文=みかみてれん)