この作品は、著者と奥さまに子どもが生まれる前の、ある夏の静かな記憶を書いたものである。
この美しくも静寂な作品は、読んでもらうことが一番である。
わたしがこの作品についてあれこれと語ってしまうと、この美しい記憶の物語が壊れてしまいそうで怖い。
だからこそ、ここでは著者の書く力が、いかに素晴らしいかを伝えようとおもう。
少なくともわたしにとっては、特別なハプニングがあるわけではない記憶を人に伝えるのはかなり難しい。
それがわたしにとってはどんなに大切で美しく、特別なものであったとしても、人に共有するとなると違ってくる。
確かに頭の中には素晴らしい思い出があるのに、人に伝えようとするとそれが霧散し、平凡な情景になってしまう。
しかし、著者はそれが上手い。
ものすごく上手い。
静謐な空気。
空の色。
そこで何をして、何を見て、何を思ったのか。
そんな記憶をそっと掬い上げ、壊れやすい宝物を優しく丁寧に扱うように、読者の前に見せてくれる。
その文章力には感嘆せざるをえない。
ぜひ、この静かな旅の記憶を覗いてみてください。
柱時計の音が、胸に響きます。