第十二話:鏡像の聖域、あるいは共犯者の昼餐(後編)
均衡とは、対立する力が完全に相殺され、一点に収束したときにのみ訪れる、奇跡のような一瞬だ。
それは動的なプロセスの凍結であり。その静寂は、いつか訪れる崩壊の予感によって、より一層の美しさを増していた。
食後の静寂の中。
僕は二人の少女の、それぞれに異なる「重み」を全身で受け止めていた。
左腕には、白砂が僕の裾を握りしめ、僕の肩に額を預けている。彼女の呼吸は、自分の論理が僕の支配によって塗り替えられていくことに、安堵と快楽を覚えているようだった。
右腕には、阿久津が僕の手を、自分の指と絡ませて離さない。一度目の人生で僕に冤罪を強いたあの細い指先が、今は僕という救いから零れ落ちないよう、必死に僕という現実に爪を立てていた。
「……玖島君。あなたが定義したこの三角形は、あまりに不健全で、そしてあまりに完璧だわ」
白砂が、夢を見るような声で呟く。
「ええ。お兄ちゃん。……私たちをこうして飼い慣らすなんて。……あなたは、私たちが思っていたよりも、ずっと残酷で、ずっと優しい支配者なのね」
阿久津が、僕の掌を愛おしそうになぞる。
僕は二人の少女を見つめた。
一度目の人生の「悪意」も、二度目の人生の「隠蔽」も。
すべてはこの瞬間に、僕が彼女たちを「執着」という名の檻に閉じ込めるための、必要な演算過程に過ぎなかった。
「……満足かな、二人とも」
僕が問いかけると、二人は同時に僕の顔を見上げ、そしてお互いを牽制するように、より強く僕の体に縋り付いた。
「満足なんてしないわ。……一生をかけて、あなたの隣という座標を、私が論理的に守り抜いてみせる」
「私もよ。……お兄ちゃんの魂の片割れとして、一生、離れられない悪意(あい)を刻み続けてあげる」
屋上のフェンス越し、灰色の学園を見下ろす。
かつて僕を嘲笑い、踏みにじった者たちの頭上で、僕は二人の「隣の席の美少女」に、その全人生を捧げさせている。
これこそが、僕が導き出した、灰色の再演の最終解。
一分の隙もなく埋め尽くされた「執着という名の救済」の中で、僕は支配者として、穏やかな微笑みを浮かべた。
世界は、僕たちが望む通りに、美しく歪んでいる。
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