魔力という名の「首輪」



 玉座の間には、人払いがなされていた。

 残っているのは、玉座に座る父・レオンハルトと、俺、そしてポチだけだ。


「レインよ。お前は魔界で『瘴気』を身体に取り込んだと言ったな」

「ああ。おかげでこの通り、ピンピンしてる」

「……そうか。賭けは、私の勝ちだったようだな」


 父は自嘲気味に笑うと、重い口を開いた。

 語られたのは、この世界の根幹を揺るがす真実だった。


「この世界における『魔力』とは、恩恵ではない。……『首輪』だ」


 父の話によれば、こうだ。

 遥か昔、異次元から現れた『神』を名乗る存在が、人類に魔法を与えた。

 人々は喜んだが、それは罠だった。

 魔力を持つ者は、無意識のうちに生命力を『神』へと搾取され続け、決して神に逆らえないよう精神的な去勢(ロック)をかけられているのだという。


「歴代の王も、強力な魔術師も、皆そうだ。強くなればなるほど、神への『献上量』が増えるだけの家畜……それが我々だ」


 父は悔しげに拳を握りしめる。


「だが、数百年ぶりに『魔力ゼロ』の子供……お前が生まれた」

「それが、俺か」

「そうだ。お前には『首輪』がない。神の搾取対象外だ。だが、それを教会(神の監視者)に知られれば、お前は赤子のうちに殺されていただろう」


 だから、と父は俺を見た。


「私はお前を『無能』として演じさせ、教会の目が届かない唯一の場所――『魔界』へ捨てたのだ」


 魔界の瘴気は、神の力(魔力)を阻害する毒。

 神ですら干渉できない場所。

 そこで野垂れ死ぬか、あるいは……毒に適応し、神を殺せる力を手に入れるか。

 父は、一縷(いちる)の望みを託して息子を地獄へ落としたのだ。


「……ひどい親父だ。一歩間違えば死んでたぞ」

「否定はせん。恨んでくれても構わん」

「だがまあ、結果オーライだ」


 俺はニッと笑う。

 要するに、俺のこの力は「神殺しの毒」ってわけだ。

 最高じゃないか。

 弟ごときで満足しなくてよかった。これなら、サンドバッグには事欠かない。


 その時。


 ウウゥゥゥゥ――ッ!!


 王都中に、不気味なサイレンのような音が響き渡った。

 同時に、空の色が「黄金色」に染まっていく。

 神々しい光だが、どこか無機質で、冷たい光。


「こ、この光は……! まさか『天界軍』か!?」


 父が顔色を変えて立ち上がる。

 教会の密告か、あるいは俺の力が規格外すぎてシステムに検知されたか。

 城の上空に、巨大な魔法陣が展開される。

 そこから現れたのは、背中に光の翼を生やした、のっぺらぼうの巨人たち――『天使』の群れだった。


『――警告。世界管理システム・コード999を検知』

『イレギュラー因子(レイン・アークライト)を確認。これより、王都ごと「浄化」を開始する』


 天使の無機質な声が響く。

 王都ごと消す?

 なるほど、神様ってのは随分と短気らしい。


「レイン! 逃げろ! 天使には魔法も物理も効かぬ! 奴らは『概念』そのものだ!」


 父が叫ぶ。

 だが、俺は窓を開け放ち、テラスへと出た。

 眼下には、天使の出現に絶望する人々。

 空を埋め尽くす光の軍勢。


「概念? 知ったことか」


 俺は右手に、ドス黒い瘴気を集中させる。

 黄金の光に対抗する、漆黒の闇。

 

「俺の国(エサ場)に手を出そうってなら……神様だろうが引きずり下ろして、地面に土下座させてやるよ」


 本当の戦いが、ここから始まる。

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魔力ゼロで追放された第一王子ですが、魔界の瘴気を【エネルギー変換】して無敵の身体を手に入れました。人間界の軍隊? 指先一つで消し飛びますが何か? @ikkyu33

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