コミック書評:『my sweet HOME GAME』(1000夜連続39夜目)
sue1000
『my sweet HOME GAME』
もし「異世界無双」を現代サッカーに置き換えたら──そんな逆説的な問いから生まれたようなサッカー漫画が、この『my sweet HOME GAME』だ。
主人公の名は村瀬陽翔。わずか16歳にして代表選出、ワールドカップでは日本代表を決勝まで導いた若き天才。大会のヤングプレイヤー賞を獲得し、その名は世界に轟いた。
しかし、陽翔がその後に選んだ道は、誰一人予想しなかった。リバプールやレアル・マドリードといった名門クラブからの年俸数十億の超巨額オファーを断り、自ら履歴書を送って入団したのは、スペインリーグでも目立たない中堅クラブである「CAオサスナ」。しかも、契約期間はわずか1年、給与はスペインの平均年収である420万円。クラブの寮にも入らず、町の不動産屋で小さなアパートを探し、自転車で練習場へ通い、スパイクは商店街のスポーツ用品店で買い揃える。誰もが栄光と富を夢見るサッカー界で、陽翔はあえて“普通の生活”を徹底的に選び取るのだ。
その姿は奇矯な逆張りのようにも見えるが、実際には彼の強固な信念の表れだ。サッカーを人生を飾り大金を稼ぐための手段にするのではなく、呼吸や食事と同じく日常の一部としてサッカーそのものを楽しむ。パンプローナという街を選んだ理由も「牛追い祭りに興味があったから」「町の雰囲気が気に入ったから」という素朴なもの。そこで彼は*その町のサッカー選手*として、普通に生活することを望んでいる。
物語の核心にあるのは、町とサッカーと人との関係性だ。バルで働くスタッフと親しくなり、地元出身ながら補欠に甘んじてきたセンターバックのアルベルトと友情を育み、老サポーターのラモンに温かく見守られる。陽翔はピッチでの活躍と並行して、住民としての営みを大切にし、パンを買い、子どもと広場でボールを蹴り、祭りに参加する。そこに描かれるのは、勝利至上主義でも資本主義の象徴でもなく、「一人の人間」の姿である。
しかし、試合となれば陽翔は圧倒的だった。彼の存在はオサスナを一変させる。毎シーズン降格争いが常だったクラブが、彼の加入によって躍進を遂げ、最終的にリーグで過去最高成績の3位という快挙を成し遂げる。強豪を次々と撃破する姿はまさに“無双”だが、チームの主役はあくまでクラブ全体であり、サポーターであり、町そのものだ。陽翔のプレーは、チームの勝利や敗北ではなく、町の物語として描かれていく。その圧倒的なプレーは、ある種「異世界無双」に似た爽快感を覚えるが、同時にどこか人肌の温かさも感じ取るだろう。
最新3巻までで描かれるのは、このオサスナでの一年間だ。そして過去最高順位を置き土産にした村瀬は、契約更新、年俸アップを打診されても笑って首を横に振り、他クラブからのオファーにも耳を傾けない。そして、「そろそろ別の町に住んでみたい」とパンプローナを出る。その姿は、旅人がふと鞄を背負い直す瞬間のように自然で軽やかだ。
『my sweet HOME GAME』は、従来のサッカー漫画が当然のように追いかけてきた「栄光への階段」を意図的に外す。代わりに描かれるのは、サッカー、町、人間が三位一体となって紡ぐ生き方の物語である。
資本主義的スポーツの絶対性を問い直す鮮烈なアンチテーゼであると同時に、サッカーの原初的な輝きをもう一度読者に思い出させる稀有な作品だ。村瀬陽翔の旅は、これからどの町へ向かうのか。その先にどんな“ホーム”が待っているのか。まだまだ目が離せない。
というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。
コミック書評:『my sweet HOME GAME』(1000夜連続39夜目) sue1000 @sue1000
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