干支ポート2026 路線再開

NEO

干支ポート2026 今年は平和だといいな

「はあ、なんでこの路線再開なんてしたんだろ。乗客いないのに」

 真冬の河川敷にある滑走路端に、僕はぼんやり座っていました。

 猫なので干支には全く関係ありません。でも、来てしまうのです。

「なあ、お前用事ないだろ。なんでいるんだ?」

 新年に旅立つ黒いスーツ姿のウマが、アタッシュケースを持って僕の隣に立っていました。

「まあ、新年は暇だしね。タバコでも吸うか」

 僕はポケットからプルー○・テックのデバイスを取りだし、EVOレギュラーを一本ケースから取り出してデバイスに差し込みました。

オートスタートが正常に作動し、チャージがはじまりました。

「お前、結局それに落ち着いたんだな。なんか、あらゆるデバイスを試していたが」

「まあ、要はちょっとだけニコチンが欲しいだけだからね。ないと口寂しいし」

 僕はぼんやりしながら呟きました。

「それにしても、飛行機遅れてるな。もう年が変わって三十分は経ったぞ」

 今がシガーを取りだし、手慣れた様子で点火して吸い始めました。

「無線傍受してるけど、機材トラブルだって。あと、お役目が終わったヘビが寝坊したとか、色々聞いてるよ」

 僕は電子タバコの蒸気を吸い込み、ゆっくり吐き出しました。

「なんだアイツ。寝坊しやがったのか。変温動物だから、寒さに弱いしな」

 ウマが盛大にシガーの煙を吐き出しました。

「ああ、前に使っていたC-2だけど、大袈裟過ぎるって干支組合に叩かれて機材変更したらしいぞ。新機種はF-35らしいけど」

 僕はぼんやり呟きました。

「バカか。単座の戦闘機にしてどうするんだよ。俺、操縦できないぜ」

 ウマが大きくため息を吐きました。

「気合いでなんとかしろよ。そのくらい余裕だろ。僕なんて、機種がどうなろうが永遠に乗れないんだぜ。我が儘いうな」

「それでこないんじゃないのか。ヘビが飛ばせるとは思えん」

 ウマがアタッシュケースを叩きました。

「知らないよ。そんな事。あっ、新情報。ヘビが離陸できなくて、予備機に切り替えるらしい。YS-11がくるみたいだぞ」

「また懐かしい機体だな。まあ、アレなら大丈夫だ。乗客は俺だけだから、無駄に広いがな」

 ウマが煙を吐き出しました。

「まあ、要するになんでもいいんだろ。飛べれば」

 僕は蒸気を吐き出しました。

「で、到着はどのくらいだ?」

「ああ、すでに離陸したみたいだ。あと十分くらいだって」

 僕はやる気なく答えました。

「ならいい。一時間近く遅れてしまったな。仕事のスケジュールが押されてるぜ」

 ウマが煙を吐き出しました。

 しばらくウマとぼんやりしていると、懐かしいような気がするプロペラ音と共に、年季が入った機体が滑走路に着陸しました。

 機体色は混じりけなしの金。垂直尾翼には、ダサく『干支』と書かれていました。

「ほら、来たぞ。まあ、一年頑張れ」

 僕はウマの肩を叩きました。

「ああ、行ってくる。搭乗口が開いてステップが出ているのに、ヘビのヤツ降りてこないな」

 ウマが呟いた時、毛布で全身を包まれたヘビが乗務員に寄って降ろされ、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきました。

「あーあ、冬眠しちゃったらしいよ。動かないから、病院に連れて行くって無線で騒いでる」

 僕はぼんやりウマに話しました。

「なんだよ、冬眠だと。俺は有馬記念で痛めた膝がまだ痛いのに、頑張っているんだぞ」

 ウマがぼやきました。

「まあ、いいじゃん。ほら、仕事してこい」

「お前はいいよな。十二年に一回、大忙しなんだ」

 ウマがシガーを放り捨てました。

「こら、火事になるだろ」

「気にするな。では、行ってくる」

 ウマがアタッシュケースを持ち直し、飛行機に乗り込みました。

 ステップが格納され搭乗口が閉ざされ、干支機はターボプロップエンジン音を立ててて滑走し、夜空に飲み込まれていきました。

「やれやれ、毎年大変だね。百年に一回くらいの周期でいいから、猫年を作って欲しいもんだ」

 救急車も去り、滑走路の灯火も消され、真っ暗な河川敷に流れる風は冷たいです。

 「さて、帰ろう。また一年後」

  僕は滑走路を一瞥し、そのままダラダラと家に向かったのでした。


 …落ち、ないよ。ごめんね。

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