働いて働いて働いて参ります 新撰組の師走

@Rabimama

第1話

京の町に、冬の底冷えが居座る師走。

新選組の屯所は、年末年始こそ騒ぎが増える。


食い詰めた若い者が「楽な仕事がある」と闇の斡旋所に騙され、押し込みや脅しに駆り出される事件が後を絶たなかった。


「いやさ、捕まえてみると大半は食い詰めもんでな。

 やくざの心得もねぇし、たまに浪人者もいるが……まあ弱っちい」


「震え上がって、『こんな仕事だとは知らなかった』ってやつだな」


「ああ、家のことを申告させられて、

 女房が大事なら言うことを聞け、なんて脅されてたのもいた」


「だがな、やったら終わりだ。

 どんな事情があろうと、情けはかけられねぇ」


「幕府も京都守護職も動いてはいるが、

 元締めがなかなか掴めねぇんだよな」


「ふふふ……瀬戸際で捕まえる僕たち、ヒーローですよねえ。

 もう少し、ボーナス欲しいですよねえ」


「酒だろ。酒」


各隊、夜回りと捕縛でへとへとだった。


「正月? 寝正月ができりゃ上等だな」


誰かの呟きに、乾いた笑いが漏れる。


土方歳三は、帳面を叩きつけるように閉じた。


「愚痴ってる暇があったら巡察に出ろ。

 年の瀬は、魔が入りやすい」


厄介事は放っておけば雪だるま式に増える。

粛々と仕事をこなす日々だった。



一方、近藤勇は――

祇園に顔を出した帰り、見事に人の良さを発揮していた。


「あの、副長、これ……」


隊士が差し出したのは、見知らぬ商家の揉め事の書付と、

泣き落としのような事情説明。


「いやぁ、放っておけなくてなぁ」


土方は額を押さえる。


「だからって押し付けられるな!

 持ち帰るな! 会津にも桑名にもやらせろ!

 正月前だぞ!」


「まあまあ、歳三。

 年越しに人を泣かせるのも、後味が悪いだろ?」


結局、土方は口をつぐむ。

尻拭いをするのは――俺か。総司か。斎藤か。藤堂か。



そんな中、

井上源三郎率いる六番隊は、少し違う空気に包まれていた。


井上は近藤勇の兄弟子で、新選組の大幹部。

剣はさっぱり、土方のような切れ者でもない。

武州多摩の土の匂いがする、のんびりとした男である。


「忙しいのは分かってるがな。

 正月だし、腹いっぱい食わせてやりたいよ」


門松の手配、雑煮の段取り、酒の算段。

巡察の合間に、慎ましく正月の準備を進めていた。


「先生、こんなことしてて怒られませんかね」


「だいじょうぶだろう」


その言葉どおり、

夜半に通りがかった土方は、炊き出しの匂いに足を止めただけで、何も言わなかった。



やがて迎えた大晦日。


新選組は相変わらず走り回り、捕縛し、仲裁し、ため息をつく。


それでも――


「あと少しで正月だ」

「餅があるぞ」

「井上先生の雑煮が待ってる」


そんな小さな楽しみが、疲れ切った隊士たちを支えていた。


夜明け前、屯所に戻った土方は、静かに息を吐く。


「年中無休だな……」


だが、門の向こうにうっすらと差す新年の光を見て、

ほんの一瞬だけ、口元を緩めた。


正月を楽しみにする余裕がある限り――

新選組は、まだ折れてはいない。

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