第9話 喪失

目を開けるとそこは公園だった。

明るい。朝を迎えていた。

「っえ…?なんでこんなとこにいるんだ僕。」

慌ててベンチから立ち上がる。

手がベタべタする。服も汚れている。

「うわっ何だこれ?」

記憶が全くない。また何かやってしまったのだろうか。この公園も何処かわからない。近所ではないのだとしたら一刻も早く家に…

「家には帰りたくない。」

不意に口から出た言葉。何故かはわからない。

混乱する自分に近づく一つの影。否…



「真傘君…?真傘君だよね?

こんなところで何してるの?」

「お前は…笹原…。」

ふと感じる違和感を振り払うように問う。

「ここは何処だ?」

「何処って…俺ん家の近くの公園。

真傘君ここら辺に住んでないよね?全身汚れてるし、家出でもした?」

沈黙するさとみ。戸惑ってるようだ。

「うーんじゃあ一旦俺ん家来ない?

身なり整えてそっからどうするか決めようよ。」

答える間もなく笹原はさとみの手を掴む。

混乱の顔が一つ、策略の顔がもう一つ。

そして軽蔑の顔が一つ。






「思い出せない?自分が昨日何してたか?」

「うん…。」

アヴェリーに自分の体の仕組みを知られている事を告げられた以降、何も覚えていない。

笹原の宅に上がり込み、肩にかけたタオルを握りながらさとみは俯く。

その姿をマジマジと見つめる笹原。


机で向き合って二人は会話していた。

卓上にはお茶菓子と紅茶。

(朝の6時だってのにお菓子ってこいつほんと可哀想な育ちだ。まあ客人をもてなすってことなら合ってるんだろうか。)

そんな思考を巡らすのは笹原の上空を飛ぶ天使。



「まぁ、のんびりしてたら思い出すよ。」

ニコニコと穏やかに自分は人畜無害だと。

笹原はそれが素の自分であるかの様に振る舞う。

天使は吐き気を覚える。この場を離れたいように

「どうする?この後、家帰る?」

さとみの目に恐怖が映る。何かを感じた笹原は続けて問う。

「誰か家に来たの?」

その質問に目を逸らし、顔に影ができる。

「………。違う…と思う。」

「あ、記憶ないんだったね。ごめん。

好きなだけ、ここに居ていいからね。」

「ありがとう。でも…家族の人は?」

「俺一人暮らしなんだ。だから気にしないで。」

「…僕も一人暮らしだ。驚いた。

他にもいたなんて。」

「ふふっ。本当君とは気が合うと思うんだ。

さとみ君。」

不敵な笑みだ。その裏に確実に何かを隠している笑顔。だがさとみは動じない。いつも見る光景だったのだろう。そこから危険を感知し、行動することなどとうの昔に諦めていた。


「っ……⁉︎」

さとみの中に突然記憶が戻る。ダイジェストで流れる。人格が交代したのだ。おそらくトリガーは笹原のあの笑み。

「……‼︎」

突然の情報量に耐えきれなくなる。

それを切るように椅子から立ち上がり、言葉を叫ぶ。

「っちょっと、トイレ借りる!」

自明、妙な空気を感じ取った笹原。

突然慌ただしくなるさとみを前に笹原は呆然


     していればよかったのだが


「どうしたの、さとみ君!?」

目が何処かいっている。意識よりも先に天使に合図を出していた。

「って、……!?」

さとみは首を掴まれ天使に拘束される。

トイレまであと一歩。足が宙に浮いたまま、必死にもがく。

「て、天使…?っぐ離せ!」

「ごめんさとみ君。本当にトイレだったら言ってね。」

揉める二人の背後から矛盾した心身の青年が言う


「俺が天使とわかるのか。」

天使は少し喜ぶ。性格上、よく間違われたのだろう。そして暴れるさとみの手に笹原は手錠をかけた。

「離していいよ。シエナ。」

ドサッ。床に落とされ、途端咳き込んだ。

「いきなりなんなんだお前ら。」

首あたりを摩る。もう片手は手錠がついていた。

「ごめんね。変なことされたら困るから。

現に戻ったでしょ?記憶。」

ズバリ!と笹原は自信満々に言う。


笹原と天使を前に下手なことができない。

どんな能力を持ってるか、どこまで俺のことを知ってるのかも。

「あぁ…。それにお前が著者ってこともな。」

「君もね〜!いや最初シエナから聞いた時驚いちゃったよもう!!」

ハイテンションで一人騒ぐ笹原。

そんな主を前に天使は何か気配を感じ取る。

「やっぱり俺ら運命だよ!うんうん!!」

彼のズボンを突起したものが張る。

彼は自分の片手に、さとみにかけた手錠の片方をかけた。さとみは目の前の現実を素直に受け入れる。そんな彼に笹原は質問する。

「君の天使はどこ?」

「知らない。」

「は?知らないなんて事あるの?

もう隠してもムダだよ。」

出てきてよ天使さーん!と笹原が言い切る前に、彼の遣いの天使が遮る。

「こちらに、人間以外の気配が2体ほど。

向かってくる予感がする。それも別方向から。」

アヴェリーと悪魔か…、そうさとみは悟る。

自分を追う利益などあるのだろうか。

きっと利己的に過ぎない。ならここで…。


「喧嘩でもした?天使と。」

無邪気に笑う笹原。余裕そうに天使に合図を送る

「ま、結果的にその天使とは戦いそうだし。

今さとみ君がここにいるなら、さっさとやるべきだよね〜。」

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