第4章

第25話 【22】クォーティア公国へ



――――夏休み。俺たちはフリージアに誘われ彼女の祖国クォーティア公国へと向かう。因みに久々の里帰りなのだからとフリージアがレインさんも連れてきてくれた。


「夏休みはクエストを受けるつもりだったんだけど」

「何言ってんの。アンタは別!おばさんたちもレインの顔を見たがってるのよ?アンタ、何年家に帰ってないのよ」

「え、年単位なの!?」

でも前世の社会人時代ならメールやメッセージのやり取りはしても直接顔を合わせることは少なかったかもな。

しかしレインさんはまだ学生だ。


「いや……その。なかなか家に辿り着けなくて」

まさかの方向音痴で辿り着けなかったのかよ!?


「それはその……実家すらもと言うのなら入学式に帰ってこられなくても無理はない……のか?」

「あはは……その時は本当にごめんね」

俺は実家の場所なんて知らないから辿り着けるわけもないし戻りたくもない。しかしフリージアとレインさんの様子からしてもそこまで親子仲が悪いようにも見えない。完全に方向音痴が過ぎるせいだな。


「とにかく……おばさんたちも駅に迎えに来るって言ってたから、今年は実家に帰るのよ」

「分かったって、フリージア」

レインさんが苦笑しながらも頷く。


そうこうしていれば列車が到着した。


「夏季帰省や冒険者活動に赴く学生たちも乗る列車よ」

フリージアが教えてくれる。

冒険者活動か。学園領にもギルド支部はあれど、実際に依頼を請け負うには大きな街に行くこともあるし夏は国に帰って冒険者活動と言うことも多いからか。


「入学の時以来だなぁ」

「まあねぇ。でもクォーティア城なら転移もできるけど」

とアルさん。


「一度行ったことのある場所なら転移も自由自在なんだっけ」

「てかクォーティア城に行ったことあるの?」

フリージアが驚く。

「いや、まあでも訪れたことがあるならなら普通か。観光名所でもあるのよ」

「へぇ、すごいな」

中世の古城のような感覚だろうか。


「でも転移で行けたとしても、列車旅は必須よ!」

「そうよ。学生同士で列車旅と言うのも今しか体験できないことよ」

レベッカが頷く。


「ま、それでいいよ。ロジーたちが楽しいならね」

アルさんが苦笑する。


「……でもやっぱりここなの?」

レベッカの視線の先の車両はまたも王族や皇族用の貸し切り車両である。


「お姫さまが2人も乗ってるんだからな。あと魔帝が過保護なの」

とルオさん。


「ああそう言えば。夏休みはフリージアの祖国で過ごすことを魔帝さまにも報告したんだったっけ」

でもレベッカが帰ってこないことにだだを捏ねる魔帝さまにピシャリとメッをしてくれた魔帝妃さま。


「でも公国に行くのならせめて王族や皇族の専用車両にしてくれと頼まれたのですよね」

とルシルさん。


「まあそれでも楽しめることは楽しめるだろ?」

ルオさんが笑う。


「確かにね。今回はお菓子も用意したし……お弁当もね!」

事前に作っておいた焼き菓子やお弁当もマジックボックスに完備してきたのだ。


「学生たちは気にせず楽しみな」

「うん、ルオさん!」

「きゃっ!」

シギも美味しいものが食べられるのでウキウキしている。


従者用ではあれど、向い合わせの席に腰掛ける。レインさんは意外そうだったがフリージアもレベッカもこっちが気に入ってしまったからなぁ。アルさんたちも別の従者用の席に腰掛けていた。


「きゃっ、きゃっ、きゃー」

「ん」

俺とフリージアの膝の上で楽しそうなシギとシルフィにもお菓子をあーんしながら、楽しい列車旅となった。


※※※


クォーティアへ到着すれば同じく帰省したクォーティアの生徒や出迎えに来たご家族にもフリージアは大人気である。

「小さな国だからこそかしら」

フリージアが照れたように微笑む。


「それからレイン!おばさんたち来てるわよ」

「ああ……!」

レインさんも無事にご両親に引き渡せばとても感謝されてしまった。家に帰れないほどの方向音痴……大変だな。


そして駅を出れば大層な装備の騎士と思われる集団が並んでいた。


「わ……っ、てっきり城で出迎えかと思ったら何で外にいるのよ!?」

「フリージア、彼らは……」

お姫さまでも普通に剣の講義を受講できる国、クォーティア。女性の騎士たちも多い。男女比は半々じゃなかろうか。


「う、うちの近衛騎士……」

やっぱりクォーティアの騎士かよ!?


「駅では他学生たちの出迎えになっては困ります。姫さまの性質もありますから」

どうやら彼らにもお見通しだったようだ。それでもフリージアの気持ちを最優先してくれるあたり、何だかほっこりするやり取りだ。


「うう……それはありがとう」

普段ツンツンしながらもそう言うフリージアをみな微笑ましそうに見つつ、俺たちを馬車に案内してくれる。


「馬車は普段公王家が使っているものよ。魔王国のと比べたら簡素かもしれないけど……」

「関係ないわよ。フリージアと一緒に馬車に乗るの、楽しいもの!」

「レベッカ……!その、そう言ってくれるって思ってたけど」

「もう、フリージアったら」

お姫さま同士仲良さそうだなぁ。

こちらの馬車には学生メンツ、ルオさんたちはもうひとつの馬車に乗せてもらっている。アルさんは馬でいいと言いたそうだったが。


会話に華を咲かせるフリージアたちを見守りながら馬車の小窓から外の風景を見ていれば、所々に竜のモチーフを発見する。

「きゃきゃーん」

「そうだね、竜だ」


「そうね。黒魔竜が多いけど、ほかにもクォーティアの山岳に住むと言われる太陽竜や秘境湖に暮らす青竜などのモチーフもあるのよ」

俺たちの視線に気が付いたフリージアが教えてくれる。

「へえ、クォーティアって黒魔竜以上に竜大国だったのか」

「きゃきゃーん」

来てみないと分からないものである。馬車を降りれば王城は目前である。王城の周りにも竜の銅像がある。


「きゃーん!きゃっ!」

シギは赤い鱗の太陽竜を指差し目をキラキラさせている。

「やっぱり同じ竜同士興味があるのかな?」


「青竜は神竜なのでともかく……太陽竜とは。主よ、確か神々も頭を抱える世界の異物では?」

と、馬車を降りてきたルシルさんが教えてくれる。

「え……?そうなの?」


「確かになぁ。でもアルは仲良くやってるようだしいいんじゃないか?」

え?アルさんったら仲良しなの?


「暴れるつもりがないのならいい。竜が好きすぎて異物までモチーフにするクォーティアはなかなかに好きだよ」


「その、クォーティアを好きになってもらえるのは嬉しいけど……太陽竜と仲良しってどう言うこと!?」

フリージアが驚愕している。


「ただの腐れ縁だよ」

アルさんの様子にルオさんが失笑する。


「君たちもシギと仲良しじゃないか。竜だって仲良くしたがることもある」

「そうだけど……」

ルオさんの言葉に頷きながらもフリージアはちょっと戸惑っているようだ。


「私も仲良くなれるかしら」

しかし仲良くなろうとするフリージアもすごいが、危険ではないのか?


「うん……?ロジーの友人でシギも懐いているのなら彼女も牙を剥かないし……案外気に入るかもよ」

俺とシギの影響で彼女も牙を剥かない?

「きゃぁ?」

うーん、魔人と黒魔竜だからか?しかしながら、彼女。彼女と言われると何故だかしっくりとくる。俺はこの世界で彼女に会ったことがあるのだろうか……。


「ほら、みんな。公王さまたちが待っているんだから」

レベッカの言葉に前方を見れば、クォーティアの近衛騎士たちと共に男女が立っている。女性の方はフリージアによく似ていた。


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2026年1月22日 00:00
2026年1月23日 00:00
2026年1月24日 00:00

今流行りの追放されてもう遅いざまぁルートかと思ったら、まさかの魔人転向ルートだった件 瓊紗 @nisha_nyan_

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