第24話 【番外編③】初代勇者に捧ぐ
――――side
あのひとが待つ平和で穏やかな小国。大国に比べれば国土は小さくとも国民は農業を営みながら、時には狩りをしながら幸せそうに暮らしていた。
だが……ごうごうと燃え盛る炎が国中を包み込み、悲鳴と轟音の中戦火に抱かれた。
「何でこんなことに……っ」
あのひとが待っているはずの家には誰もいない。小さな黒魔竜も、あのひとも、誰も……。
「くそ……っ」
大国が侵攻した小国の国境に駆けた。あのひとを求めて。黒魔竜が飛び去った方向へ。
「お願い……お願い……ロジーが」
鎧に身を包んだ少女は、度々あのひとの元を訪れていた。
「あなたは……っ」
あのひとはたまにはこう言う体験もさせてやりたいと笑っていた。公王もあのひとのもとならば安心だと微笑んでいた。
「お願い……ロジーが」
――――俺は化け物なのに。彼女がいるならと立ち去ろうとしたのに。あのひとは平然と俺も食卓に座らせた。
『大切なのは今どうしてるか、どうしたいか……でしょ?』
彼女の目はまっすぐにそう見つめてきた。そんな純粋でまっすぐな目は……涙で揺れていた。
「ロジーは私たちのために……」
攻め込んできたグローリアラントからクォーティア公国を守ろうとしたのだ。
「本当に……ろくなことをしない国だ」
大地の口が戦場をまるごと呑み込む。あのひとの遺骸ごと、自分を。
残ったのは……大地に突き刺さった大剣。
「……」
俺はその大剣を掴んだ。ロジーさんの方が背が高いから、この大剣も難なく背負える。
しかし自分の背丈ほどもある大剣をいとも簡単に引き抜けるのなら……。
「やはり俺は相変わらず化け物なんだな」
「何を……する気……?」
彼女が震える声で問うてくる。
「諸悪の根源を絶って来る」
「……そんなことをしたら」
それが指す言葉を彼女が知らぬはずもない。
「お前のやることは決まっている。まだ生き残った国民がいるのなら……お前は公国の王族としてやることがあるはずだ」
彼女の答えを待つことなく俺はグローリアラントへと帰ってきた。いや……この国に俺の帰る場所などない。
「二度とクォーティア公国の地を踏むことは許さない」
断末魔の悲鳴を上げるグローリアラントの国王、王妃、王の子女たち。城のものどもも、全て。
「全て。全て……戦場で大地の口に呑まれたお前らの同胞や王太子……それから皇天竜のようにな」
――――根 絶 ヤ シ ニ シ テ ヤ ル
どれくらい殺しただろうか。血にまみれもう視界は真っ赤で、もう誰の悲鳴も聞こえない。
【女神の加護を受けたと言うのに。愚かなひとの子だ】
「誰だ」
【ふむ……そうだな。俺はお前たちの崇める神ではないから】
「神……?俺の崇める神などない」
【これは手厳しいな。女神もそっぽを向かれるとは】
「女神など知らない。そんなものが何の役に立つ!」
あのひとが死んだ。あのひとが……たったひとりの……俺の……。
「ロジーさんが……っ」
【そうだな……お前にとってはいつも唯一の帰る場所だった】
「いつも……?」
【そうだ。この世界とお前の前の世界は決して時系列が一致しているわけではないから逆になってしまったが。あれの魂は再びこの世界に戻る。魂の傷を癒せたのなら】
「あのひとがまた帰ってくるのか」
【それが我が子の願いだから】
「お前の……?」
【そうさな……しかしそれには時間がかかる。悠久と呼べる時間が。そしてそれはお前の待ち人でもあろう。ならば今度こそお前にそれを守る力をやろうか?】
「力なんてもう、欲しくもない」
【破壊ではない。守る力だ】
どこまで、読んでいる。
【女神はそれを与えたかった。だからお前にそのジョブを与えたんだ】
意味が分からない。この力もジョブも破壊を繰り返すだけ。
【だからこそ俺が導いてやろう。それも俺の役目だ】
「そんなこと……どうやって」
【我が眷属になればいい】
「けん……ぞく?」
【そうだ。そうすればお前に今度こそ居場所をくれてやろう】
そう、神は笑った。
神を信じたわけじゃない。でももう一度会えるのなら。今度こそ守れるのなら。
神の手を取ってもいいと思ったのだ。
【いい子だ。お前も今から我が子のうち。人間が魔の側に来れば魔人となるが】
「それがなんだ。既に人間だなんてみなされない。だからどうでもいい」
【そうか。でもそれもお前らしい。なぁ、悠久の時を待つのは暇だろう?異界のゲームでもしてみないか?】
この神はただ暇潰しをしたいだけではなかろうか?だが……その神のことは嫌いではないと思ったのだ。
――――その後、あのひとの墓参りに訪れた公国の石碑には、恩人とその相棒の名と共にこう刻まれていた。
クォーティア公国初代勇者アルヴィン・ソルナイトに捧ぐ。
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