第8話

ロボットアニメのテーマソングが聞こえてくる。

僕の意識が覚醒する。

起き上がろうとしたとこで左半身が妙に熱いことに気づく。

あと、やわらかい。

僕が恐る恐る隣をうかがうと、僕にぴったり寄り添って、すーすー寝息をたてる女の子がいた。未来だった。


「おーまいがー」


額に手を当て昨日の記憶を呼び起こせば、どうやら未来に絞め落とされ、そのまま寝てしまったらしい。未来まで寝てしまう必要はなかったと思うが、僕がまず考えなければならないことは、彼女のご両親への釈明だ。

娘の不在をおじさんとおばさんがどう思っただろう…。

僕は嫌な汗を背中に滑らせながら、目覚ましを止めるため立ち上がる。

ソファの背にかけていたダウンジャケットのポケットからスマホを取り出す。

操作していると、ちょうど着信がきた。

明日香からだ。僕は特に考えもせず電話に出た。


『翔太、おはよう』

「うん、おはよう、明日香」

『ん。昨日もおやすみの電話をしたんだけど、寝るの早かった?』

「あー昨日ね…」


どう言えばいいかな、と僕が言葉をとめたタイミングで、後ろのベッドがごそごそし出す。


「翔くんぅ…もう朝ぁ…?」


電話の向こうでスゥーと息を吸う音が聞こえた。


『…ねえ、翔太、今の誰の声?』


僕は本能的にヤバいと思った。

未来の存在を隠さないと!

やましいことはないけど!全然、やましいことはないけど!

僕は未来の方を見て、しーっと唇に指をあてた。

こちらに気づいた様子の未来が口元を押さえ、こくこくとうなずいた。

これでよし。


「えっと…テレビのニュースのアナウンサーじゃないかな」

『ふーん』

「明日香って毎朝、新聞をチェックするでしょ?僕は新聞は苦手だから、せめてニュースだけでもってね。あと、来年は入試だから時事問題の対策にもなるし――」

「翔くん、おはよう…ちゅっ」

「へ?」


いつの間にか僕の近くに未来が立っていた。

そして、挨拶と同時に、ほっぺたにリップ音を鳴らす。

いやいいや!?何してるの!?

僕は静かにしててって伝えたよね!?未来も分かったってうなずいたよね!?

それに、ほっぺた!

罰ゲームのちゅー以外で今までこんなことしたことなかったじゃん!

唖然とする僕を尻目に、未来は告げる。


「私、用意があるから部屋に戻るね。翔くんも着替えたら1階のロビーに集合だから。朝食はバイキングらしいよ」


未来は何事もないかのように出て行く。

僕は意識を無言を貫いているスマホに戻す。


「あのー、明日香さん?」

『…翔太』

「はいっ」

『帰ったら、ひどいから』


その一言を残して、ぷっつり電話は切れた。


「ひどいって何…ちょー怖いんですけど…」


僕はため息をこぼす。

朝っぱらから精神的疲労を味わいながら、着替え始める。

こんなハプニングがあったものの、幸いなことに、というより、不思議なくらい未来のおじさんとおばさんに何も言われなかった。

それについては、ホッと胸を撫でおろしたよ。


ホテルの食堂でバイキングを食べ終えた僕たちは、昨日のようにミニバンに乗って移動する。

後部座席の隣に座る未来にちょんちょんと腕を叩かれる。


「翔くん、翔くん、ぐるぐるしよ」

「いきなりだね」

「これから悪魔討伐だって思うと、何かやってないと落ち着かなくて…」

「なるほど。じゃあ、しよっか」


僕たちは両手を握り合う。

手を通して互いの体の中にマナを循環させる。最初は未来が主導権を持って、次は僕が、その次は未来が、と繰り返す。

訓練により干渉の感覚をつかんだ僕は、未来の体内にあるダムのような膨大のマナであっても干渉して流れを作ることができるようになっていた。

自分の成長が実感できてじみじみとした気分になる。

そこへ運転席のおじさんが声をかけてくる。


「今日はこの近辺にある三件の依頼を回ることになるからよろしくね」

「三件もいっぺんにするんですね」

「異能力者は常に不足しているから仕方ないさ。それでも、今回の討伐対象はすべてD級の悪魔、つまるところ一番弱い悪魔だから、油断は禁物だが、過度に不安がる必要はないよ」

「だってさ」

「うん」


その後も車は進み、最初の目的地にたどり着く。

商店街だ。

車を降りた僕たちはアーチ状の入口を抜け、屋根の下を歩く。

連なる店は寂れた様子はない。普段は人で賑わっているのかもしれない。

でも、今は明らかに人通りが少ない。

そして、その原因となっている、それが視界にすでに見えている。

商店街の通りの中央を、固いタイルをぶち抜いて、アメジスト色をした結晶が地面から生えていた。

全体の範囲は直径2メートル程。大人を超える高さの結晶の柱が不揃いに何本も生えている。


「これが悪魔の巣…」


未来がポツリとつぶやき、僕の服の袖をぎゅっと握る。

人類の生存を脅かす超生命体、悪魔。

悪魔討伐と言った時、それは二種類に分けられる。

1つはハグレ悪魔の討伐。

もう1つは悪魔の巣の討伐。

今回は悪魔の巣の方で、その名の通り、この結晶体の中には悪魔がうようよといるらしい。

が、緊急度で言えば、ハグレ悪魔の方が高い。

なぜならば――


「おお、異能力者の方々ですね。よくぞ来てくれました」


近くで待機していた商店街の責任者らしき人が話しかけてくる。

おじさんが応対する一方で、おばさんはというと結晶体の周りを回り、ある物を確認していく。僕が後を追うと、未来もついてくる。

おばさんが確認しているのは地面に打たれた太い杭だ。


「これはね、御神木で作られた特製の杭で、封印の術の起点となるものよ。杭に貼られた御札に異常がないか確認しているの」


説明してくれたおばさんは紫色の結晶――悪魔の巣を中心に、円状に等間隔に打たれた5本の杭を調べ終わった。5本の杭は今も封印の術を発動していて、地面には杭をつなぐ淡い青色の線が幾本も走り輝いていた。それは五芒星の形をしていた。

この封印の術があるからこそ、悪魔が悪魔の巣から外に出てこられないのだ。

悪魔の巣が発見されたと一報が異能協会に入ると、とりあえず封印の術を行える異能力者を派遣し、後日、別の異能力者が討伐を行うという流れになっている。


おじさんが僕たちの方にやって来た。

責任者の人は遠くからこちらを見守っている。


「特別おかしな兆候はないそうだ。そっちは」

「こちらも封印に異常は見当たらないわね」

「よし。それでは今から悪魔討伐を始める。未来、翔太くん、準備はいいかい?」

「翔くん…」


未来が不安そうに僕の手を握ってくる。

僕は力強くうなずいて、彼女の手を握り返す。


「私が先に入って中の様子を確認してくるから、五分後に入ってくるんだ」


そう言うと、おじさんが結晶体に手を触れる。

すると、ぎゅるっとおじさんの周囲の景色が渦を巻く。

またたきの間に元通りになっていて、もうそこにおじさんの姿はなかった。

僕は緊張している未来には申し訳ないが、すごくワクワクしていた。僕の好きなロボットアニメとは毛色が違うが、待ち受けるバトルに男心がくすぐられるのは仕方ないってもんでしょ。

そして、5分が経つ。

僕と未来はせーのと声を合わせ、一緒に結晶体に手を触れ、悪魔の巣に突入した。


――――――


今日は途中だけど、ここまで。

あけましておめでとう!初詣に行ってきます。

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