第5話 本城勇祐(ほんじょうゆうすけ)

超人高校1年生、15歳。警察部会計。

銀髪の丸みを帯びた短髪、透き通ったオレンジの瞳。身長は152cm。


僕は、どうして超人高校にいるのか分からない。

ここは能力を持つ者しか入れないはずなのに、僕には特別な力なんて何もない――はずだ。

それでも今、僕は警察部の会計として、日々を過ごしている。

とはいえ、悪いことばかりではない。

あそこでの毎日は非日常的で、どこか胸が躍る。

年頃の男子として、派手な技や強い能力を見るのは、正直かなり好きだった。


今日は漫画の新刊を買うため、街の本屋に来ていた。

袋に入った本を見て、自然と気分が浮き立つ。

――その時。

誰かにぶつかった。

「ご、ごめんなさい! 前を見てなくて……」

顔を上げる。

そこにいたのは、明らかに堅気ではない男たちだった。

「痛ってぇなぁ……」

「なぁ兄ちゃん、この落とし前、どう付けてくれんのや?」

喉が鳴る。

背筋を冷たいものが走った。

「兄貴にぶつかっといて、タダで帰れると思うなよ?」

身体が固まる。

声が、出ない。

「だ、誰か……」

「おっと。呼ばせねぇよ」

視界が塞がれる。

口にも何かを押し付けられ、そのまま――意識が途切れた。


目を覚ますと、無機質なコンクリートの部屋だった。

手足はロープで縛られ、身動きが取れない。

「……目ぇ覚めたか?」

男の声。

口を動かそうとして、気づく。

「んー……!」

テープで塞がれている。

呼吸が荒くなる。

男は、面白がるように言葉を続けた。

「なぁ兄ちゃん。ひとつ、いい提案してやるよ」

勢いよくテープを剥がされる。

皮膚が引き攣り、痛みが走った。

「この前、洞窟で捕まえた化け物が居るんだわ」

「性能テストってやつだ。ちょっと相手してくれ」

「……な、何を……」

「安心しろよ。勝ったら、ちゃんと帰してやる」

扉が開く。

入ってきた“それ”を見て、息が止まった。

真っ赤な三角形の被り物。

包帯のように巻かれた身体。

そして、二メートルはあろうかという薙刀を、玩具のように振り回している。

「抵抗しないと、八つ裂きだぞ〜」

「ほらほら。死にたくなかったら、ちゃんと動けよ〜」

遠くで、男たちの笑い声が響く。

だが、そんなものは耳に入らない。

心臓が暴れる。

呼吸が浅くなる。

――なんで、こんなことに。

――どうして、僕が。

恐怖だけが、世界を塗り潰していった。




そして――の意識が覚醒した。

縄を握ると、筋力だけで簡単にブチブチと引き裂ける。

異空間から短刀を取り出すと、視線の先で男たちが動揺した。

「な、なんだテメェ!?」

「おい薙刀の化け物!ソイツをやっちまえ!」

振りかざされた薙刀が、こちらへ迫る。

「遅せぇよ」


――閃光。

一瞬の動きで化け物は切り刻まれ、地面に被り物の破片と包帯、粉々の薙刀が散らばる。

「肉とかねぇのか。変な生き物だな」

奥で野次を飛ばしていた奴らに視線を向ける。

「さて……この勇祐を傷つけた落とし前、つけてもらおうか」

一瞬で数人の片腕を切り飛ばす。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

「俺の腕が!俺の腕がぁ!!」

「テメェ…何しやがる…!」

残る者たちの声も、怒号も、恐怖に塗り替えられる。

「何って落とし前だよ。誘拐して化け物と戦わせようとしたんだ。命の覚悟くらい出来てるはずだろ?」

「チッ……おい野郎ども!構わねぇ!全員でヤツを殺せ!人数はこちらが圧倒的に有利だ!」

「応援も呼べ!組の奴全員呼べ!」

俺は、呆れ顔で返す。

「短気なのは良くねぇぞ?寿命が縮むからな。今ならまだ許してやるぞ?」

「黙れ化け物が!かかれ!!」


――――1時間後

コンクリートの部屋には静寂が訪れる。

「やっと終わりか…全く、ゴキブリ見てぇに次々出てきやがって…」

床には、かつて人間だった赤い肉片が散乱していた。

「汚ねぇなぁ全く…勇祐が気にしたらどうする…」

そう言ったものの、靴底以外には血の跡は見当たらなかった。




は気がつくと、街のベンチで眠ってしまっていた。

「あれ…ここどこだろう…」

日が傾き始めている。相当長く眠っていたらしい。

「確か怖い人に絡まれて…あれ?」

懐を確認すると、買ったはずの本がどこにも無かった。

「本盗まれちゃってるよぉ…」

今日は不幸な日だ。急いで本屋に向かい買い直すと、しょんぼりしながら帰路を辿るのだった。

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超人達のクトゥルフ的記録達 はるむー @harumu_64

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