NTRエロゲの悪役に転生したけど、俺は主人公とヒロインの幸せを見守るつもりです。 ~誠実に生きていたら、なぜか俺がヒロインから夜伽を迫られました~
チー牛のやきだんご
第1話 ノア、前世の記憶を取り戻す
決して順風満帆な人生ではなかった。
それでも、俺の人生はそれなりに楽しかったと思う。
オタク仲間たちとエロゲーの話で盛り上がって、VTuberのライブに行って、毎日楽しかった。そしてその日は、お気に入りのエロゲーをもう一周しようと思いながら、軽い足取りで帰っていた。
だけど、居眠り運転の車に跳ねられて、俺の人生はあっさりと終わってしまった。
そんな前世の記憶を、頭が割れそうなほどの痛みと共に思い出していた。
「しっかりしてくださいっ!」
「大丈夫ですか、ノア様っ!? 誰か早くお医者様をお呼びしてくださいっ!」
切羽詰まった表情で従者たちは声をかけるが、返答するだけの余力は残っていなかった。
(けどまぁ、この俺がいなくなった方がみんな笑顔になれるんだろうなぁ……)
そう自嘲しながら、その場で意識を手放してしまう。
※
目を覚ますと、真っ白な天蓋が目に入った。フカフカのベッドは心地よくて、前世で眠っていた布団とは比べられないほどだ。先ほどの頭痛も今は嘘のように消えている。
彼の名はノア・メイクラフト。
メイクラフト侯爵家の三男で、今は13歳。
そしてここは、前世のノアがやりこんでいたエロゲー「クインテットラバー~あなたはどの音色を奏でる?~」─通称クイラバの世界。
転生してしまったのは、百歩譲ってまだなんとか納得できる。だが、どうしてよりにもよって、ノアなんだろうと思う。
このクイラバの世界において、ノアはヒロインを地獄の底に叩き落とす悪役だからだ。あの手この手を使ってヒロインに近づき、主人公からヒロインを寝取っては彼らの心に消えない傷を残す。
その性格がゆえに屋敷で働く従者からは嫌われ、婚約は破棄され、他の貴族たちからは最低最悪のゴミクズ貴族と呼ばれるようになってしまう。
そしてユーザーがトゥルーエンドを迎えた時に限り、主人公とヒロインの手によって、その悪行を命で償わされるのだ。
(そしてゲームはハッピーエンドを迎える……まぁ、そのハッピーエンドが凄く難しかったんだけどね)
せっかくヒロインが主人公と結ばれて幸せな気持ちになっていたのに、選択肢を一つ間違えるだけで、すぐにノアに寝取られてしまうのだ。凄く理不尽なゲームだったが、それゆえ熱くなったのも、当時はいい思い出だった。
(とはいえ転生してしまった以上、ヒロインを寝取るなんてことは絶対にしない……というか、大好きなヒロインが悲しむのなんて絶対に見たくないよ、普通。まぁ、その辺は俺が大人しくしておけば問題ないとして……これからどうしたもんかな……)
部屋を見回してみるが、倒れたノアを気遣う者は誰一人いない。前世の記憶を思い出したせいか、胸にぽっかりと穴が開いてしまうような虚しい気持ちが沸き上がってくる。
(もしゲーム通りなら、ここは俺の屋敷。家族は誰もおらず、あるのは従者とたくさんのお金だけ……)
ため息を吐きつつも、ノアがベルを鳴らすとすぐにノックの音がする。
「し、失礼します……」
声を震わせるメイドの一人が、飲み物を携えて部屋に入ってくる。
「あれ、レイラじゃないんだ……?」
レイラはノアの屋敷で働くメイド長。そしてこのクイラバの世界において、メインヒロインの一人である。そしてなぜか、ゲーム序盤─ノアの回想シーンにおいて、唯一、彼に親切している人物でもあった。
黙ったままのノアがよほど恐ろしかったのか、メイドは顔を真っ青にさせながら体を震わせている。
「……も、申し訳ございません。メイド長は、現在買い出しに行っております」
努めて優しい声音で尋ねるノア。
「メイド長が直々に? どうして?」
「今、市場に異国の商人が来ております。希少なハチミツやナッツ類といった珍しい食材が入荷しているとのことで、メイド長が直々に買いに行かれました」
「そっか、そっか……ありがと……う」
ノアのお礼の言葉に、メイドが目を丸くさせている。そしてか細い声で「とんでもございません」と答えるが、明らかに動揺していた。
メイドの反応を見て、思わずため息をついてしまいたくなる。
(ったく、ノアは今まで本当に何をしてくれてんだよ……とはいえ、今までの俺はネチネチとイジメていたから仕方ないんだけどさ……)
だからこそ転生した今の自分は、決してイジメるようなことはしないと改めて心に誓う。その決意をメイドに話そうと思ったのだが、
「…………ん? 市場……異国の商人……珍しい食材」
ふと、これらの単語がノアの頭で引っかかった。
何か大事なことを忘れている。
そしてすぐに思い出す。
「…………ノアの回想シーンとまんま一緒じゃん」
そして、ヒロインの一人であるレイラの死に繋がる、ゲームの重要な分岐点の一つ。
そのシーンが脳裏をよぎっていた。
「クソッ、クソッ! テメェ……俺を殺そうとしやがって! たかがメイドの分際で俺に逆らいやがって……絶対に許さねぇからなっ!」
目をキッと吊り上げて、憤怒の炎を燃やす男が一人。ノアだ。そして彼の視線の先には、土下座をするレイラが肩を震わせていた。
「申し訳ございません……申し訳ございません、ノア様。言い訳の余地もございません。私でしたらどんな罰でも──」
「ど、どうしようっ! とりあえず、レイラの様子を見に行かないと!」
ゲーム通りの世界なら、主人公はいるはずだ。だがヒロインが五人もいるこの世界で、主人公がレイラルートを選ぶ保証もない。そして主人公がレイラルートに干渉しないのであれば、彼女は命を落としてしまう。
そしてこの不幸の始まりは、レイラが浮浪者たちの慰み者にされてしまうところから始まる。
(俺と関わることで不幸になるんだから極力干渉したくないけど、何かあった時は俺が助けてあげたい……!)
助けてあげたいだなんて、傲慢な考えなのかもしれない。
でも前世でイジメられて辛かったときは、クイラバのゲームが自分の支えだった。大好きなゲームの回想シーンを思い返しては自分を鼓舞して、ヒロインの笑顔に心から癒された。
ヒロインを不幸にしてしまう悪役だろうが、少しでいいから恩返しのようなことがしたい。
弾かれるようにノアは部屋から飛び出ると、木剣を持って急いでレイラの元へと向かった。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
書き溜めていますので、この作品とお付き合いいただければと思います。
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