直球勝負の直井さん
荒三水
第1話
直井さんと隣の席になった。
彼女はとても寡黙な人だ。いつも無表情で淡々と物事をこなしては一人で過ごしている。
美人だけど、私に話しかけるなオーラを漂わせている。
彼女がクラスの誰かと話しているところを見たことがない。もちろん僕も彼女と話したことはない。
けれどこれから隣の席同士でやっていくとなると、ずっと無言でいるわけにはいかないだろう。
僕は勇気を振り絞って話しかけてみることにした。
「どうも……あの、話すのはじめてだよね?」
「はい」
彼女は唇だけ動かして答えた。視線はまっすぐ黒板を見つめている。
「次は数学かぁ。最近、授業難しくない?」
「いいえ」
「直井さんは数学得意なんだ?」
「いいえ」
「得意じゃなくてもわかるんだ?」
「はい」
「ドラクエの主人公か」
まずい、つい突っ込んでしまった。怒らせてしまったかもしれない。
彼女は顔色ひとつ変えずに言った。
「いいえ」
あくまでその態度を貫くつもりらしい。
それならこっちにも考えがある。
「ものを燃やしたあとに残る物質は?」
「はい」
「酸素を取り込んで二酸化炭素を排出する器官は?」
「はい」
「英語でこんにちはは?」
「Hi」
発音よく返してくれた。意外にノリがいいのかもしれない。
「えっと、じゃあ……」
「人で遊ばないでください」
怒られた。
けれどやったぞ。直井さんから初めて「はい」と「いいえ」以外を引き出した。
「私に話しかけないほうがいいですよ」
直井さんは無表情のまま僕を見て言った。
何やら事情がありそうな重々しい口ぶりだ。
ここは踏み込むべきかどうか⋯⋯いや思いきって聞いてみよう。
「どうして?」
「私はその⋯⋯思ったことをなんでも口にしてしまう癖があって」
「へえ?」
「実は今めっちゃ緊張してます。さっきのくだりも『Hey』『いやそこはHiじゃないの』っていう流れにしたほうがよかったかなって⋯⋯」
思ったより複雑な思考回路をしていた。
「いや全然よかったよ。むしろ直井さんノッてくれるんだってびっくりしてる」
「はいー↑」
「ん、大丈夫そ?」
「あっ、すみません調子に乗りました。もっとおもしろく思われたい自我が出てしまいました。このようにしゃべるとボロが出るのでなるべくしゃべらないようにしているんてす」
直井さんはぱっと口元を手で押さえた。
うつむいて顔を赤らめてしまう。
「でも何考えてるかわからないより、ぜんぜんそっちのほうがいいと思うよ」
「そ、そうですか? こんなに矮小で浅ましく醜い思考回路をしているのに」
「いやいやそんな下げすぎでしょ」
「⋯⋯あれ? でも今何考えるかわからないって言われた? やっぱり何考えてるかわからないやつって思われてたんだうわきついきついドラクエ主人公モードに戻ろうかしら」
「あっ、ごめんごめん。ちょっとわかりにくいかなって」
寡黙な人かと思ったらめちゃめちゃ早口でしゃべっている。
少し驚いたけども、僕は逆に安心した。
「なんだ、直井さんって普通にしゃべれるんだ」
「いいえ」
「そんなことないよ話せてるじゃん」
「いいえ」
「また戻っちゃったよ」
「わたしに話しかけないほうがいいですよ」
「ループ始まっちゃったよ」
気を抜くとBOT風になってしまう。
本人が嫌ならこれ以上無理強いすることもないか。
と話を終わりにしようとすると、直井さんは神妙な面持ちでひとりでに語りだした。
「私はその⋯⋯口下手ですので。昔からなにを考えてるかわからなくて気味が悪い、とよくいわれてまして。ならいっそのこと、考えてること全部直球で言ってやれと思ったんです。そうしたら、いつしか周りから人がいなくなっていました……」
「そうだったんだ⋯⋯。それって、いったいどんなこと言ったの?」
「右ストレートでぶっとばす。まっすぐ行ってぶっとばす」
「怖い怖い何があったの急に」
「チャラそうな男子に『直井さんって清楚系だよね』って言われたので。そんなわけないだろお前に私の何がわかる? ジャ●プ系二次創作BLでニヤニヤしている女が清楚系? クラスメイトの美少女をネタにGL創作をしている私が? などなど反骨心的なものが爆発してしまいまして」
「へ、へえ~⋯⋯? 創作とかしてるんだ?」
「まあ、はい。直球勝負の直井さんっていうペンネームで」
「それ絶対隣の席の男子とかに軽々しく言ったらダメなやつじゃん」
「あはは、直井なんて苗字いっぱいいるから大丈夫ですよ」
笑ってるけど余裕で特定できる気がする。
小心者なのか大物なのかいまいちキャラが掴めない。
「でも考えていることを素直に口にするようになってから、とても体の調子がいいんです。もともと私、体調を崩しやすくて……学校に来るといつも下痢だったのに、今はすこぶる快便です。食欲も出てきて肌ツヤもよくなりました」
「なるほど、ストレス解消になってる感じ?」
「そう。永遠の孤独と引き換えにね」
「なんで急に厨二病?」
「人は生きる限り一人だよ!」
「やめてもらっていいですかそれ」
「あっ、すみません。このように私、言ってはいけないことを言ってしまうんです」
直井さんは申し訳なさそうにうつむいてしまった。
けれど本人も決して悪気があってのことではないようだ。
距離を取るのは簡単だけども、それだと僕もかつての彼女の友人と同じになってしまう。
「まあ、別に僕は気にしないよ。理由を聞いたら、根っからの悪人ってわけじゃなさそうだし」
「えっ⋯⋯。そんなこと、初めて言われました」
「あ、そう? 今まで悪人って言われてた?」
「ちょっと好きになりかけてます」
「えっ? そ、それは⋯⋯」
「お人好しそうだし、私のことをいい感じにフォロー&キャリーしてくれるかも⋯⋯。ビジュはちょっとびみょいけど⋯⋯身長ももう少し欲しいとこだけど、とりあえず様子見で仲良くなっておくのはありかも⋯⋯」
「全部言っちゃうじゃん」
「この際フツメンでも……TierBで妥協しようかしら」
「ゲームのキャラランクみたいに言うのやめてもらえる? それにしても勝手に人のことをBランクはひどくない?」
「あっ、そうですよねすみません。じゃあギリギリTierAということで……うっ、お腹が……!」
「ごめんもういいよBでも! Cでもなんでもいいよ!」
みるみるうちに彼女の顔色が悪くなっていく。
嘘をつかせてしまうと体調が悪くなってしまうようだ。
「ではお互い素直になれないじれじれ路線で行きましょう」
「無理だよね。直球でしかものを言えない人が約一名いるし」
「そんなことないです。あなたのことなんて別になんとも思って……うっ、ガハッ! ゴホっ!」
「ちょっと無理しないで!」
急に危険な咳をはじめてしまった。吐血でもしそうな勢いだ。
青い顔をした直井さんはお腹を押さえながら立ち上がった。
「じ、授業が始まる前に、ちょっと、と、トイレに……」
「大丈夫? 手かそうか?」
「気安く触らないでください。私は心を閉ざしているので⋯⋯ぐ、ぐふぅ⋯⋯」
「続けるんだその路線」
さっきから自爆している。
直井さんはふらつきながら教室を出ていった。
それから数分後。
直井さんは無言で席に戻ってきた。
何事もなかったかのように次の授業の準備を始める。
「直井さん?」
「はい」
「またリセットされてるよ。トイレ大丈夫だった?」
「いいえ」
「あかんやん」
「私に話しかけないほうがいいですよ」
「かもしれないね」
「でもほんとはグイグイ来てほしいなって思ってます」
「めんどくさっ」
「あの、もし嫌でなければ⋯⋯少しずつ、話しかけたりしてもいいですか?」
直井さんは急に声のトーンを変えて、上目遣いに僕の顔色をうかがってきた。
そういうのもできるらしい。忘れそうになるけど彼女はみんなが一目置く美少女なのだ。
ここはクールに⋯⋯いや、直井さんは少しひょうきんな面もある。
ならば⋯⋯。
「はいー↑」
「ウッ⋯⋯ガハッ、ゴホッ⋯⋯!」
「えっ? なんで体調崩してるの?」
「すみません、どうやら人が滑ってるのを見たときも体調が⋯⋯」
「はいー先にやったのそっちでしょ」
直井さんの属性がまた一つ増えてしまった。
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ずっと前になろうに上げたやつをマイルドに直しました。偉すぎぃ。
直球勝負の直井さん 荒三水 @aresanzui
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