第8話 燎火
夜になると、兵卒たちに
「ちょいと宜しいか」
と鐘を鳴らすような音声で話しかけてきた。
「はい、
顔良はその老兵をみたとき
──この人からは優れた気が満ち満ちている
と感じたが、声や態度には出さず淡々と返事をした。
「さきに
声は笑っているが、顔は
──この人は誤解を受けやすい人かも知れぬ
顔良はこうして近づいてきた理由を
「そうですか。いまこんなことを聞くのも変ですが、この反乱が終わったとして天下が再び治まると思いますか」
老兵は不意を突かれたのか、顔良を見つめたままに口を閉ざす。一度瞬きをしたのち、ゆっくりと話し始めた。
「荒れる、だろうな」
顔良はその顔が
──きっとこの人も、父と同じような
そう感じて、続けて言葉を投げかける。
「ならば、その原因は何でしょう」
「さあ、われにも解らぬ。あるいはこの国が、あるいは天そのものが、望んでおるのかもな」
──天命にその理由を求めているのか
顔良は拍子抜けしたような気分に陥った。この人からは、もっと実体を持った言葉を聞きたかったからだ。目を燎に向けて粥を注いだ椀に口をつけ、そして啜った。
「それで。聞くばかりではつまらなかろう。お主はどう思っておるのだ」
逆に聞き返され、自らの思うところは何なのかを実際に口から出す。
「わたしも荒れると思っています。
老兵は
「ふむ、それで」
「そののち国の力が削がれた分、対処は難しくなり、中華は
老兵は眉をぴくりと動かした。
「随分と悲観的だな。おぬしは実際に官衙に上ったことはあるのか」
「いえ、堂陽のあたりでずっと田畑を耕しておりました」
「そうか、そうか」
顔良は老兵の笑った顔を始めてみた。しかし身にまとう雰囲気はさきとは一変したといって良い。
「おぬしの言ったことにはふたつの正しいことと、ふたつの間違いとがある。よろしいかな」
何を言い出すのか、それを注聴しようと身を乗り出した。
「まず正しいこと。この乱がおこったのは
むろん、これは皆がわかっていることだから何も言うことはない。しかし気になるのは間違っていることとは何かという点である。
「そして、間違っていること。この状況で一番笑うのは誰だと思う。」
突然の問いに口ごもってしまったが、しばらく考えたのちに
「乱の
と答えたが、老兵がまた肯くことはなかった。
「違う。乱の首魁はわれらが必ず討ち果たす」
「ならば、だれですか」
「それはな顔叔善、各地の諸侯や隠れて爪を研いでいる者たちよ」
顔良は目を見開いて老兵を見た。
「老父殿、滅多なことは言わないでください。あなたの言っていることはすなわち」
「ああ、そうだ」
顔良は粥の入った椀を地に置いて、身を乗り出す。それを老兵が手で招いて、耳元に手を翳した。
「世の中には野心を持った者がいるものだ。世に乱れが生じると必ず
耳元から離れた老兵は手の指を二本立てて
「わしはそういった者を少なくとも二人、知っておる」
と示した。
顔良は
──誰が
と言いかけたがその言葉をぐっと飲みこみ、誰にも言うまいと
「そしてそういった者たちがいる限り、中華は弊れぬ」
言い切った老兵が立ち去ろうとしたとき名前を尋ねたが、笑ってはぐらかされて結局
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