第5話 氓民
その一団が暴徒化して、自らの住むあたりに迫ってきている、という
──それでは土地を荒らされるばかりで、世のためにはならぬ
そう思ってこの集団と対決する道を選ぶと、すぐに次兄の
顔良はこの時、畑を耕していた最中に城へと入ったために極めて粗末な服を着ていた。そのせいか吏士たちは顔良のことを
「ならば剣を与えるから、城の外にでも打って出てみよ」
という態度で備えてあった武具を手渡してきた。
顔良はこの態度にむっとはしたが、今はこのような
城の外に出ると、その反乱集団が歩くたびに起こす砂煙が遠くに見えた。
顔良はもとは民が離散集合したものであるから、数はよくて数百だと思っていたが、それにしては余りにも煙が縦横に広がっていた。
──数千はいるな
と大体の数を察した顔良は、城の北にある林の中に身を潜めて動向を
彼の集団はまずどちらに動くのだろうか。彼らがただ食料を欲する集団であるならば、無理に人の籠る城を攻めることなく畑に向かって作物や倉を略奪すれば良いと判断するはずだ。だが、彼らの目的はどこにあるのだろうか。徒党を組み、暴徒と化して一帯を
次に彼らがする動きを予測しながらにいると、やがて
彼らは畑に向かわずして、城に向かって歩を進めた。彼らは食料が足らぬことよりも、救いの手を差し延べない人に恨みを抱いている。彼らが城というものに庇護されている人に対して、その矛先を向けて攻撃をしてくるのであれば、そのことはこの集団がただの流民ではなく、ひとつの思惑のもとに集まった同志となっていることも表している。
城に迫ってきた賊に対する一の策として、父には
城を守るこちらの攻め手は見え透いているだろうから、この方法で敵を打ち破れるわけではない。あくまで牽制として行ったのである。
また、弓や
このふたつの行為をもって動きを
顔良は
──居た
その人物は集団のやや後方にいて剣を振り、城を攻めさせようと声を張り上げていた。
しかし、壁から降ってくる
顔良はこの一連の攻防を持ち堪えた城に戻ることなく、かの集団の持つ
三十人の人夫達には支給された剣を持たせている。声を出さないように、そのあたりに落ちている枝や葉を
言葉を発さないまでも、手でもって後ろに附いてきた人夫を制止させると、枚を外させ
「行くぞ、声を出せ」
と大声を出し、剣の身を剝いて一挙に夜営の準備をしている賊たちの中に突っ込んでいった。
所詮は訓練を受けていない平民たちであるから一息に散り散りとなり、その場は混乱状態に陥った。先に見た、この集団の
「静まれ、静まれ」
と声を張ってこれを治めようとしていたが、すでに統率を戻せる状態からは逸脱していた。
顔良たちは何人かを斬ったが深く敵の陣の中に入ることはせず、むしろ浅い位置で剣を幾度か振ると、すぐさま林の中に戻ってもときた道筋を辿り、城へと帰った。
城門の前に立ち、
「我は
と門を守る兵士に先ほど
「叔善よ、門を閉じる者が現れる前に早く入れ」
次兄の粛が内から門を開けて、迎え入れてくれたのである。
「兄上、申し訳ない。さあ行こう」
連れ立った人夫たちと城の中に駆け込むと、父と長兄、そして母が待っていた。
「敵の営に乗り込んで首を取ってくるとは、よほど無茶をしたようだな。彼奴らはどこに留まっていたのだ」
「父上、ご心配をおかけしました。賊はここから東北の方向、七、八里(2.8~3.2㎞)の林の中に営を築いておりました」
「そうかそうか。これで賊も
「いえ、そうとは限りません。彼らは家を持たぬ流浪の民。城が無理となれば、周りの畑や
「確かに、そうなってしまえば困ることになろうな。伯剛よ、冬に向けて衙の
「掛け合わないとわかりません。何しろ、近頃は鼠がおりますから」
「何とも、困ったことよ。この期に及んで──」
父が言いかけると、向こうから速足で吏士がやってきた。
「勝手に門を開けたのは貴様らか」
荒らげるようにして言い放った吏士に対して、次兄の粛が前に出て
「たしかに、そうでございます。門の前に居りましたのは我が弟で、さきの賊が留まっていた場所に三十人を率いて向かい、幾つかの首を取ったうえで還ってまいりました。ところが門の衛兵がその勇気に報いることなく、門を開けるのを拒みましたので、私が引き入れたのでございます」
顔粛は顔良を立てるようにして吏士にこれまでの経緯を話したが、吏士たちからすれば許可もなく門を開けたこの行為を許すことはできず
「いくら門の外に打って出たとはいえ、それはこちらの許していない匹夫の勇を発したに過ぎぬ。周りに賊軍がいるのだ。家族の情に
と
「賊が来たときに、まず最初に門を閉めて
と言葉に怒気を含ませた。
周りにいた三十人の士も吏士の言葉に怒りを覚えていたのが見え、顔良は自らの行為をもとに城の中に不和が生じてはまずいと思い、これから自分のやろうとしていることを説き始めた。
「相手は流民です。ここで無闇に
吏士はこれを聴き分けたのか、
「で、そのためにこれから何をするのだ」
と問うた。顔良はこれに答えて自らの策を話した。
「彼らは住まいがない分、執拗にこの地を狙うはずです。ならば襲われるたびに彼らの営所に向かい、今日行ったような夜襲を何度か行います。彼らは兵卒ではありませんから不満が起きるには数日あれば充分でしょう。そうすれば、彼らのほうから和議を申し立てに来ます。それに、我らは応じればよいのです」
「しかし、和議を容れれば彼らは増長し、また
吏士は
「私にお任せください」
とだけ言って、次の夜に向けて休みを取りに行った。
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