煮すぎたもやし

せおぽん

煮すぎたもやし

僕は、山森タケル。19歳。大学1年。彼女いない歴は実年齢と同じ。


「さあ、僕の自慢のもやし鍋だよ。豚バラ肉をしゃぶしゃぶして、もやしと一緒に食べてみて。タレは3種用意したよ」


僕は、寒くなってきたので田中さんを一緒に鍋を食べようと家に呼んだ。


田中さんの名前は、「田中かなた」。名前の通り、少し先を見ているような行いをするスマートな女性。僕の2コ上の先輩だ。僕と同様、同じ大学のBBQサークル「ブタリアン」に所属している。


半年程前のBBQの時から、時々こうして僕の家で2人で食事をしている。彼女も料理の研究が好きなのだろう。


「タケルくんは、相変わらず凝り性だねぇ。あきれちゃう。もやしも豆からでしょう?」


「うん。そうだよ。ブラックマッペに、緑豆、大豆と試してみたよ。鍋には、緑豆か大豆がいいかな。用意してあるよ。ブラックマッペの方が良かったかな」


「ふふ、相変わらずね。それよりクリスマスの予定は?」


「ん?もちろんチキンを食べるよ。クリスマスチキンは、やっぱりフライよりグリルだよね。それより、ほらっ、田中さんが、もやしを勧めてくれたから、ズボンがブカブカだよ。最近、女の子がタケルくん。シュッとしたね。と言うんだよ。以前は僕なんか無視だったのに」


彼女の眉が、ぎゅっとひそまった気がした。


どん!


次の瞬間、僕は彼女に突き飛ばされた。


「どうしたの? 田中さん!もやしが煮え過ぎてしまうよ!」


僕の肩を押さえながら、彼女は言った。


「もう。かなたって、呼んでよ! もやしが煮えるより、煮え切らない自分の心配をしなさいよ! 私以外の女の子の話なんてしないでよ!」


ちうっ。


なんだろう。僕はこの味を知らない。ふんわりとした柔らかい触感が唇に触れている。


胸から、くつくつと、煮える音がする。鍋を食べる前なのに身体がぽかぽかする。


もやし鍋と一緒に、僕に初めての彼女ができた。


「かなたちゃん、美味しい?」 と僕が聞くと彼女は、もぐもぐと鍋を口に入れ、顔を赤らめながらこくん。とだまって頷いた。

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煮すぎたもやし せおぽん @seopon

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