四天王の中では最弱

ジャイルの脳筋説が濃厚になった。

ヴィータもヴィータで


「俺達とやり合いたいなら、まずはカオリに勝手からだ。こいつは俺達の中で一番弱いからな」


とか言ってる。


わぁ。

まさかこんな所で

「あいつは俺達四天王の中では最弱」

的なセリフを聞くことになるとは思わなかった。

でも嘘ではないので肯定しておく。


「うん、そうだね。私とこの2人じゃ年季が違うのよ。彼等は私と違って、対人戦闘も慣れてるしね。と、いうわけで、ここはひとつお手柔らかにお願いしますよ、ジャイル君」

「ハ、ハイ!こちらこそ!」


よくもまあ、こんなに都合のいい場所が

あったものだと思ってしまう程

あつらえ向きな空き地にて

私とジャイルは、向かい合って立つ。

審判は、ジンがやってくれるらしい。


「構え!」


ジンのよく通る声が響き、ジャイルが構えた。


……え、構え?

構えって何?


森の中で魔獣と戦ってた時は

向かってきた奴をそのまま返り討ちにしたり

自分から向かって行って

勢いのままぶった斬ったりしていたので

まともに構えたことなんてなかった。


特に今回は街中だし

ジャイルが格闘家というということもあり

武器は使わずに、素手の戦闘なのだ。


だから余計に、構えと言われても……

どうしよう?

とりあえずクラウチングスタートの構えでも

とっておくか?


いやいや、いくらなんでもそれじゃ

舐めてると思われるよな。

うーん……


なんて、馬鹿なことをつらつら考えているうちに


「始め!」


無情にも声がかかってしまった。


…私、まだ構えてなかったよね?


「ハァッ!」


短く息を吐き、ジャイルが向かってきた。


早い。

あっという間に距離を詰められ上段への飛び蹴り。


「うわっ!」


体躯は小さめなのに、蹴りはなかなかに重い。

腕でガードすると、着地した彼からすかさず

拳が飛んでくる。


いなす、躱す。

動きは素早いし手数も多いけど

捌けない程ではない。

しかし、私は悩んでいた。


これ、どうやって反撃したらいいの?


ジャイルは真剣に向き合ってきてるから

本気で私を殴ろうとしてるし、蹴ろうとしている。


反撃する隙がないわけじゃない。

いなして躱して避けまくってれば

カウンターを叩き込むタイミングはまぁまぁある。


でもやっぱりできない!

こんな幼気いたいけな少年を殴る蹴るなんて!

それに、ぶっちゃけ加減が分からない。


魔獣相手の時は加減なんかしなくてよかった。

だから思いっきりやってたけど

以前、1度蹴りが空振りし

当たった先のそこそこ太めの木が

へし折れたことがあった。


あれを人間相手にぶちかますわけにはいかない。

怪我どころじゃ済まなくなる。


スタミナ切れを狙おうかとも思ったけど

それじゃあまりに不誠実。


手加減しながら人を殴る。

そんな経験今まであったか!?


前世の記憶を必死に呼び起こし

どうにか1つ見つけた記憶があった。


あれはまだ夫と交際中だった頃

ちょっとした口論から喧嘩に発展し

頭にきて、つい手が出てしまったことがあった。


あの時のビンタ!

これだ!

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