子犬のおねだり

「カオリさんって、強いですよね」

「え?」


さかのぼること数時間前。

荒磯亭にて食事中、ジャイルが突然聞いてきた。


「初めて会った時に見せてくれたあの動き、只者ただものではないと思いまして!」

「確かに、私もあの時魔力感知でアンタの動きを追ってたけど、あの移動スピードは尋常じゃなかったわ」


ファイが追随してきた。

ここは、ド田舎出身設定をフル活用することに。


「あー、小さい頃から山とか森で野生動物を相手に遊んでたから、猿みたいな動きはできるよねー。木登りとか得意だし?遊びの一環で魔獣相手の戦闘も覚えた感じかな」


我ながら、よくもここまでスラスラと

嘘が出てくるものである。


すると、ジャイルは瞳をキラキラさせながら

おねだりをしてきた。


「1戦、お手合わせ願えませんか!?」

「ぅえ!?お、お手合わせ?戦闘訓練ってこと?あの、さっき言ったけど、動物とか魔獣相手だったら経験あるんだけど、対人って初めてだから、うまくできるかどうかゴニョゴニョ…」

「大丈夫です!万が一怪我をしても、ニーナがいるから心配無用です!」

「あ、あー……そう?それじゃ1戦だけね」

「やったぁ!ありがとうございます!じゃ、明日いいですか?」


…と、こんな具合にやんわり断ろうと

思ったのに、思いの外押しが強かったジャイルに

寄り切られてしまったのだった。


「よかったじゃねぇか。これから先、対人戦闘も避けては通れないだろうから、今のうちにしっかりシゴいてもらっとけよ」


いつの間にか動揺から立ち直ったヴィータが

しれっと言い放つ。


「そうね。最初に言ったけど、これから先、世界の均衡を揺るがすようなことが起こる可能性は極めて高いわ。でも大抵の場合、その元凶は人間なのよ。だから…」


ヴェールが言い淀む理由は察せられた。


この先、私が他者の命を奪わなくてはならない

可能性が極めて高いということだ。


ここは平和な日本じゃない。

やらなきゃやられる状況に陥ることは

決定しているようなものだ。


「うん、そうだよね。今のうちに、免疫をつけとかなきゃだよね。せっかくのこ゚縁だし、今回は彼の胸を借りよう」


そうして翌日、約束の場所へと向かい

ヴェールとヴィータとも合流した。


どちら様?

と驚く4人に、実は初めからこの街で

合流する予定だった仲間なのだと説明する。


4人のうち、3人はなんとなく納得したようだが

1人、ファイだけは表情を曇らせ

顔色を悪くしていた。


彼女の索敵能力と魔力感知はかなり優秀だ。

もしかしたら、ヴェールとヴィータが

人間じゃないことに気付いたのかもしれないが

それを問い詰めて、騒ごうとはしないみたい。


うんうん、賢い選択だね。


「カオリさんのお仲間ということは、お2人も相当強いですよね?僕と1戦手合わせを…」


ジャイルよ…君はポジション的に斥候せっこうなんかも

するはずだと思うんだが、そんな猪突猛進な感じで

大丈夫か?

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