不憫な契約者 -sideヴェール-

あぁ、またネガティブな思考に陥ってるわ。

不憫な子。


今回、不自然に召喚された契約者を

儀式の場所へは行かせないことを決めた私達は

自分達で契約者を育てることにした。


本来ならば神聖国内に召喚されるから

呼び出した側の人間達は

契約者の事情を知っている。


この世界のことや、戦い方や魔力の使い方を

教えるのは、その人間達の役目なの。


契約者の方も、本当は天寿を全うして

自らの死をきちんと受け入れた上で

納得して契約者になるのよ。


必要なくなるとは言え

習慣的に食事と睡眠を求める契約者に対し

常ならば、不自由しないだけの環境が

与えられるはずなの。


でも今回に限っては、まず自分の身を守る

戦い方を覚えてもらわなければならないわ。


この世界の人間に、手取り足取り教えてもらえれば

さほど不安にはならなかったと思う。

この世界が自分を頼り、受け入れてくれている

というのを肌で感じることができるから。


自分の身体に起きた変化を理解し

未だこの世界の人間に出会えていないカオリには

これから先は、不安しかないだろうと思う。


ヴィータの後を追いながら

思考の海に溺れそうになっていた

彼女の気を逸らしてあげようと

一時、結界を解除した。


すると、すぐに魔獣が襲ってきた。

ヴィータが難なく蹴散らすと

その音でカオリは我に返った。


ヴィータには私の意図が正確に伝わったようで

若干呆れ顔で、ため息をかれた。


でも、歴代の契約者と比較しても

カオリが優秀だというのは嘘ではないわ。

初めて魔獣と遭遇した時も

私達が側にいたとはいえ

臆することなくヴィータの戦い方を観察し

いかに自分のものにできるかを

考えているようだった。


その後ヴィータも言っていたように

ただ追随するだけだったとしても

考え事をしながら、彼の動きについて行くのは

並大抵のことではなかったはずよ。


しかもヴィータはちょっと意地悪をして

わざと難しいルートを選んでいたの。


それから魔力操作。

元々魔法や魔力という概念のない世界から来る

契約者達は、魔力操作に少なからず手こずるわ。

向き不向きはあれど、魔力操作だけでも

早くて3日、長ければ1週間はかかるのが普通よ。


それなのに、カオリは魔力操作も含め

握ったことも無いであろう武器の使い方

体の使い方から対魔獣戦闘に至るまで

たったの5日で覚えたの。


……不眠不休が可能という特性を最大限利用して

かなりのスパルタだったことは否めないけど。


でもそんなスパルタに、弱音も不満も口にせず

ひたすらに食らいついてきた彼女の集中力たるや

尋常ではなかったわ。


なぜそんなに頑張れるのかと訪ねた私に

彼女はこう言った。


「私がやられちゃったら、2人も共倒れしちゃうんでしょ?私が2人の弱点になるのは嫌だもの。2人は私に、新しく生きる意味とチャンスをくれた大切な存在だからね。絶対に失いたくないんだ。私が2人を守れるくらい強くならなきゃね!」


こういうの、何て言うんだったかしら?

目からウロコ?青天の霹靂だったかしら?


何にせよ、今まで数多くの契約者を見てきたわ。

神である私達に対して、守ってくれと言った者は

いたけれど、自分が私達を守るだなんて言ったのは

カオリが初めてだった。


不覚にも、ちょっと泣きそうになったわ。


やっぱり、カオリは今までの契約者とは

一味違うわ。

大事にしなきゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る