現状を体現
そんなことを考えながら
木々の間を飛び回っていると
不意に、バン!という音がしてハッとした。
見れば、ヴィータが魔獣を蹴散らしていた。
あぁ、いかん。
思考が沼ってた。
私は気を引き締め直すと
ヴィータに続いて木から下りた。
「考え事をしながらとは、随分余裕だな」
少し呆れたように言われて、言葉に詰まる。
「うぅ…ゴメンナサイ。危機感が足りませんでした」
素直に謝ると、ヴェールがフォローしてくれる。
「この短時間で、考え事をしながらヴィータについて行けるようになるなんて、カオリが優秀な証拠よ」
優すぃ…さすがリアル女神様……
「じゃ、次は戦闘訓練よ!戦うための体の使い方を覚えましょう!」
アメとムチの使い方がエグいんよ。
でも実際、それが今の最重要課題と言っても
過言ではない。
日本という平和な国で生まれ育った平凡な私は
戦闘などという物騒な言葉とは
無縁の生活をしてきた。
戦うということは、命のやり取りをする
ということ。
一度「死」を経験したからこそ
あんなのはもうごめんだと思うと同時に
他者の命を奪う覚悟も
容易にできるとは思えなかった。
再び思考が沼った私を見て
ヴィータが大きなため息をついた。
「ハァ…だったらまずは、魔力の使い方を先に覚えろ。魔獣と戦うためには、魔力操作は必要不可欠だ。だから…そうだな、今の俺達の状況を体現してみろ」
ヴィータはそう言うと、人差し指をピンと立てた。
すると、その指先にろうそくくらいの火が
ポッと灯った。
「俺達は今一文無しだ。お前のいた世界じゃ、今の俺達みたいな貧乏人の生活を『爪に火を灯すような生活』って言うんだろ?実際にやってみろ。爪に火を灯してみ?」
無駄に知識ばっかありやがって。
誰が上手いこと言えと?
くそぅ…本当のことだけに、何も言えない。
「おぅおぅ、やったろうじゃないの!くっそぅ…今に見てろよ。魔力操作も戦闘もバッチリ覚えて、魔獣バンバン倒しまくって、ガッポリ稼いでやるんだから!」
「フフッ、それじゃまずは自分の中に意識を集中させて。心臓を中心に魔力が流れているのを感じ取れたら、それを指先に集めるようにイメージするのよ」
教えてもらいながら悪戦苦闘し
ようやく爪の先に火を灯すことができると
ヴェールは自分のことのように喜んでくれて
ヴィータは満足そうに微笑んだ。
そうして魔力操作をかろうじて覚える頃には
沼っていた思考は消えていて
ヴィータの皮肉も、私への気遣いだったことに
気付いた。
ツンデレさんのアメは少し分かりづらかったけど
彼等に気を使わせてしまったことを
少し申し訳なく思うと同時に
その気遣いが、純粋に嬉しかった。
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