立体に機動するアレ

速度を上げて走ることしばらく。

私の体は、相も変わらず汗をかいていないなければ

息も上がっていない。


それどころか、なんだか動きが単調すぎて

物足りないとさえ思い始めた。


以前の体なら、これだけ走れば足をもつれさせ

派手に転び、ヒーヒー言っていたはずだ。


準備運動をする私に「その次元の体じゃない」

と言ったヴィータの言葉をようやく理解した。


「よし、動きは問題ないな。じゃあ次は目を慣らすぞ。よく見て、俺と同じ動きをしろ」


そう言うと、ヴィータは走る速度を一気に上げた。

あっ…と思う間もなく

軽く踏み切ったように見えた彼の体は

すぐそこに生えている木の上にあった。


目を慣らすって言ってたけど

そもそも森の中で木にぶつからないように

まあまあの速度で走ってた段階で

目は慣れてると思うんだけどなぁ…。


なんて、思ってた私はぬるかった。


空中移動は想定外だったわ。

飛行をするわけではなさそうだったが…。


同じ動きをしろと言われて

できるかどうかははなはだ疑問だが、女は度胸。

やってやんよ!


「でぇやあぁぁーーー!!」


しおらしさや可愛らしさなど

微塵も感じさせない叫び声で気合を入れて

助走から思い切り踏み切り、飛び上がった。


……え、何この感じ。


無重力とはまた違う、空中なのに体を意のままに

操れている感じ。


そのままヴィータがいる木の上に着地でき…

あ、ちょっと、ヴィータどいて、ぶつかる。


「よし、大丈夫そうだな。しっかりついて来いよ」


そこからヴィータは次の木の上にヒョイと飛び移り

まるでおサルのように木から木へと渡って行った。


おっしゃ!負けてられるか、行ったるでぇ!


見様見真似で、私も次々と木を渡った。


これは…あれだ。

巨人が進撃する、某大人気アニメの主人公達が

使っているあの装置。

アレを装備せずともあの動きができちゃう感じ。


ヤバす。

めっさ気持ちええ。


目を慣らすのは、この動きと速度

それから高さのためか。

具体的な数字は分からないけど

体感では、原付きくらいの速度は出てると思う。

見続けてる目だって、本来なら相当疲れるはず。


「その次元の体じゃない」


ふと、ヴィータの言葉が頭をよぎる。

飲食も睡眠も必要とせず

肉体的な疲労もなく、年も取らない。


それは一見、とても機能的で便利だけど

見方によっては恐ろしい。

外見は人間と同じでも

中身はもう人間とは言い難い。


かと言って、神様と同じというわけでもない。

心臓を貫かれない限り、死ぬことはない。


悪い言い方をすれば、化け物だ。


まだこの世界の人間には会ったことがないけど

果たして、私はこの世界の人間達に

受け入れてもらえるのだろうか…。


気味悪がられ、爪弾つまはじきにされるだけならまだいい。

悪意を向けられたらどうすればいい?


己の身を守るために

人間と戦わざるを得なくなったら

私はどうすればいいのだろう…。

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