イケメン彼女と、平凡な男子である「俺」。本作は、そんな二人の描写から始まります。しかし、二人の関係は「嘘」であることが、次第に明らかになる・・・
本作の中盤では、文芸的な、濃密な心境描写が続きます。その妖しい程に美しい描写は、二人が「嘘」でその身を鎧わねばならない理由を、克明に暴いてゆく。
そして、ラストシーン。タイトル『鏡の中の共犯者』の意味を、回収するラストシーン。
嘘で世界を騙して互いを守りあう、共依存のような関係性が美しい。
社会の「普通」とは相容れない二人の、美しくて力強い尊厳に、胸を打たれました。
ぜひ最後までお読み頂き、この読後感を感じて頂ければと思います。
語り手である調月時雨が、自分のイケメン彼女である齋藤伊織との関係について語る本作。
時雨をエスコートする伊織のスマートさはどんな男性にも引けを取らないほどであり、その容姿や言動は周囲すらも魅了する。そんな伊織のエスコートを受けながら恥じらいを感じたり時に男らしさを発揮したりする時雨もまた魅力的な登場人物であり、二人とも実に人間味があると感じた。
だが、本作の魅力はそこだけではない。キャッチコピーにもある世界を騙してという点。周囲も羨むほどの二人の関係性にはとある“嘘”がある事がここから感じられる。それがどんな嘘なのかは実際に読んでみて確かめて欲しいが、その嘘はあまりにも美しく、その嘘は二人の関係性やその魅力を高めるものなのは間違いない。
とても文学的な文体や情景たっぷりに描かれる各描写、その読みやすさと内容の深さによって読み始めたが最後、その結末まで止まらずに読んでしまうほどにのめり込んでしまう。煌めく闇のような二人の愛は、まるで底無し沼のように読者を捉えて離さず、一話完結でありながらもその続きを求めてしまうはずだ。
調月時雨と齋藤伊織、彼らの愛はこの現代だからこそ様々な人々に見てもらいたい。きっと、あなたのこれまでの価値観は破壊され、彼らのみならず作者が描く眩しさの中にある小さな闇、愛や希望、夢の奥底にある絶望の虜になるだろうから。