江戸の暑い盛り、善いことをした若い大工が、礼代わりに“穴の空いた箱”を渡される。しかも「手を入れるのは一人の時だけ」と念を押される――この導入だけで、もう落語の匂いがして楽しい。語り口も小気味よくて、貧乏長屋の湿気や手酌酒の気配がするっと立ち上がる。
箱の仕組みが分かってからの展開は、発見の気持ちよさと、やりすぎたら怖い気配のバランスが絶妙。くしゃみひとつで“世界”が反応するのが可笑しいのに、同時にぞくっとする。怪異を派手に見せるんじゃなく、日用品と身体感覚(濡れる、落ちる、つままれる)で押してくるのが上手い。
そして欲に寄りすぎず、江戸っ子らしいところでスッと引く締め方が気持ちいい。寓話っぽい教訓にしすぎないまま、「そりゃそうだよな」と腑に落ちる余韻が残る。読後、身の回りの箱や穴がちょっとだけ気になってくる短編。
実に粋な話だと思いましたよ。
星新一のショートショート、あるいは、古典落語に通ずるような物語にございました。
主人公が、ある骨董屋の前を歩いているときにございました。
突然骨董屋が苦しみ出して、これはいけねえってんで医者を探し、
骨董屋にはお銭がねえってんで、立て替えてやった気風のいい主人公。
そんな主人公に、骨董屋さんは不思議な箱を、代金がわりに譲るのにございました。
見れば妙な箱です。
四角形で、穴が空いていて、それだけ。
主人公が手を突っ込もうとすると、骨董屋がそれを止めます。
何やら一人でいるときに箱に手を入れてほしいとのことでして。
使い方によっては無価値。
しかし、価値のある使い方をすれば千両万両の価値ありと。そう言って手渡すのにございました。
はてさてこの箱は一体……?
登場人物がとにかく、気持ちのいい男でございまして。
なんというか尺的に落語の前座話にいいのではないかな?
なんて思いました。
ぜひ、ご一読を。